SWEET CHOCOLATE

店を閉めて、ティファはクラウドの部屋へ向かう。
そのドアを控えめにノックして部屋のなかの様子を窺うように覗き込むと、窓から差し込む月明かりだけの室内は薄暗かった。
中へ入って足音をたてずにそっとベッドのそばへ近づく。
クラウドは静かな寝息をたてていた。



徹夜明けで昼過ぎに戻ってきたクラウドは、そのまま倒れ込むようにベッドに沈んだ。
ご飯も食べずに横になったクラウドを気にして、ティファは接客の合間を見つけて何度か様子を見にクラウドの部屋に足を運んだ。
よほど疲れていたのか、起きる気配がまったくなくて、ひとまずはそのまま寝かせておいた。
起きてお腹が空けば、店に下りてくるだろうと思って。
けれど、店を閉める時間になってもクラウドは下りてこなく、さすがに心配になったティファは片付けもそこそこ、クラウドの部屋へと向かったのだ。



ティファはベッドのそばに跪いて、ひたすらに眠るクラウドをそっと見つめる。
「仕事、あまり無理しないでね」
小さな声でそうつぶやいて、眠るクラウドの額にかかる金色の髪をやさしく撫でた。
そうしてティファは持っていた小さな箱の包みをサイドテーブルに置く。
今日はバレンタイン。
クラウドのために用意していた手作りのチョコを本当は直接手渡したかったが、そのためだけに寝ているクラウドを起こすことはできない。
少しさみしいけれど、今夜はこのままクラウドを寝かせてあげたかった。
けれど……
(寝顔を見てるだけなら、いいよね)
さみしさもあって、ティファはしばらくそんなクラウドの寝顔を見つめていた。



眠っているクラウドはとても幼く見える。
そしてこんな無防備な姿を見ることができる自分はとても幸せ者だとティファはいつも思っていた。
クラウドの精悍な頬にそっと触れる。
起きていないことを確認して、その頬にやわらかくキスをした。
相手が意識ある状態だと恥ずかしくてできない行為も、こういう状況なら自分の気持ちに素直に行動できる。
「……好き」
ぽろりとこぼした言葉に少し頬を染めながら、ティファはそろそろ自分の部屋に戻ろうと立ち上がりかけた。
が、直前で固まる。
眠っているとばかり思っていたクラウドの口元が、緩やかに上がっていることに気づいたのだ。

固まったまま動けないでいると、クラウドの閉じていた瞼がゆるりと開いて、そこから碧い瞳がティファを捉えた。
「夜這いだなんて大胆だな?」
にやりと笑いながら、クラウドは片肘をベッドについて上半身を軽く起こす。
「俺だってしたことないのに」
「ち、違う!」
ティファはそう言って立ち上がろうと腰を浮かせる。
けれど、クラウドがそんなティファの手首をすばやくつかんでその動きを止めた。
「ティファなら大歓迎なんだけど?」
「ク、クラウド!」
真っ赤にした顔でそう言われて、クラウドは肩を揺らせてクツクツと笑う。
「悪かった、冗談だ」
そう言ってから、クラウドはサイドテーブルに置かれた小さな箱を見て嬉しそうに目を細めた。
「腹減った。食べてもいい?」
「ちゃんとしたご飯、作るよ」
そう言うティファにクラウドは首を横に振る。
「チョコがいい」
ラッピングを解いて、箱に詰められた一口サイズのトリュフを食べた。
「ん。美味しい」
クラウドにそう言われて、ティファはほっとする。
お菓子作りは得意といっても、やはり実際に食べてもらうまでは不安だった。

「なあ、ティファ」
「ん?」
「さっきの、もう一回言って」
「……えっ」
ドキッとするティファをクラウドは甘やかに見つめる。
「今日は女の人から告白する日なんだろ?」
片肘をついたまま、髪をそっと撫でられる。
見つめてくる碧い瞳から視線をそらすことができず、ティファはその瞳に吸い寄せられるように言葉を紡いだ。

「クラウドが、好き」
溢れる想いを口にした途端、涙が零れた。
クラウドはこぼれ落ちて白い頬を伝う涙を親指でやさしく拭ってから、そっと唇を重ねた。
そんなクラウドからのキスは甘いチョコの味がした。


2006年バレンタイン記念小説です。
寝ているクラウドに告白するティファを書きたかっただけ。
別にバレンタインじゃなくても良かった気がするw

(2006.02.11)
(2018.11月:加筆修正)

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