たんぽぽ

ふー
やさしく息を吹きかければ、白い綿帽子がゆっくりと空に舞う。
となりで彼女が飽きることなく続けているその姿に自然と笑みが零れた。

「ティファ、楽しい?」
「うん」
はにかんだ笑顔でうなずいて、そしてまた楽しそうに同じことを繰り返す。
それが彼女の春の楽しみ方。


「クラウドもやってみる?」
目の前に差し出された白いたんぽぽと彼女の笑顔。
よろこんでと言わんばかりに笑み返してから、たんぽぽを持つ彼女の手ごと握りしめてやさしく息を吹きかけた。

ふー
白の綿帽子がふわりと空へ舞い上がる。
その様を眺めて視線を戻せば、彼女の紅い瞳。
至近距離で見つめ合うと彼女の白い頬はほんのりと桜色に染まった。
そんな彼女の前髪には飛びそびれた白い綿帽子がひとつ。

「ティファ、じっとしてて」
そう告げて、ふーっとやさしく彼女の前髪に息を吹きかけた。
彼女はくすぐったそうに目を瞑る。
吹いた風でふわりと揺れた前髪。
形良い額が露わになって、そこにそっと唇を押し当てた。

―― チュッ
驚いた顔をする彼女にひとこと。
「楽しいな、これ」
これが俺の春の楽しみ方。


2006.5月の拍手SS。
春らしくのんびりのほほんなクラティ。

(2006.05.01)
(2018.11月:加筆修正)

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