ドキドキお化け屋敷

遊びの楽園、ゴールドソーサーに来ていたクラウドたち。
セフィロスを追うという大事な目的のある旅の途中だったが、人間ときには息抜きも必要。ということで、ほんの少しの寄り道のはずだったが、気付けば一週間は優雅にご滞在。
もはやセフィロスを追うことなど誰の頭にもなかった。



「今日はなにして遊ぶ?」
エアリスが楽しそうに仲間たちに問う。
この一週間、朝から晩まで遊び倒していたため、大概のものは遊び尽くしていた。
「せや、みなさん。ここにはゴールド会員の人だけが利用できる裏ゴールドソーサーがあるんやけど……行ってみますか?」
さすがは神羅の回し者、ケット・シー。
そういう情報にも抜かりはない。
もちろんクラウドたちは二つ返事でその場所へ案内してもらった。


「ここは本格的なお化け屋敷で、本物のモンスターを放し飼いにしてますのや」
ケット・シーの説明に戦闘バカが集まる一行は闘志むき出しにして大はしゃぎ。
「ボクは知り尽くしてるんでみなさんで楽しんで来て下さい」
「よし! じゃあ二人一組で入ろう!」
一見、リーダーらしいクラウドのこの提案。
しかし、鼻の下を伸ばして言ったその裏では、大好きなティファと一緒になってお化け屋敷を満喫することだけを考えていた。
ティファ以外の仲間たちにはバレバレな考え方だったが、いつものことなので皆、呆れながらも同意する。
そしてクラウドがリーダーの特権を活かしてメンバーの割り振りをしようとしたそのとき、ユフィがニヤリと意地悪く笑った。
「じゃ、ここは参加しないケット・シーがメンバー割り振りのクジを作ってよ。平・等・に! それでいいよね、クラウド」
まさかの邪魔にあせるクラウドだが、ここで拒否することもできずに……
「あ、ああ、そうだな。ケット・シー頼むよ……」
引きつり笑いでそう言うクラウドを気の毒そうに見ながら、ケット・シーは8本の棒をメンバーに差し出した。
「ほな、みなさんこれ引いて下さい。棒の先に付いてる番号同士がペアってことで」
そうして皆が棒を引いた結果――

1番、エアリス、ナナキ
2番、バレット、ユフィ
3番、ヴィンセント、ティファ
4番、クラウド、シド

「……」
4と書かれた棒を持ってプルプルと震えるクラウド。
ティファと一緒になれないどころか、自分だけがむさ苦しい男とペアを組む散々な結果に落胆の色を隠せない。
そうしたクラウドにペアのシドがニヤッと笑う。
「お化け屋敷っつうのはよ、野郎同士で入る場所じゃねえよな。な、クラウド」
さらに落ち込むクラウドを余所に第一陣から順に出発した。


最後の出発となったクラウドとシドが屋敷の中に入ると、そこは視界がよく見えないほどの暗闇。
遠くでは先に出発したエアリスたちの悲鳴も聞こえ、リアルなお化け屋敷に二人は意味なく興奮する。
が、しかしそこは悲しいかな、野郎二人。
「あ~あ、やっぱ男二人じゃつまらねえな。全然面白くねぇ」
シドがため息まじりにそうぼやくが、それはクラウドも同じ気持ちだ。
これがティファだったら、怖がる彼女を堂々と抱きしめてあげたりできるのに……
と、そんな下心丸出しなことを考えていた時、割と近くでティファの悲鳴が聞こえた。
この状況に退屈していたシドはニヤリと黒い笑みを浮かべ、となりにいるクラウドを見る。
「今の悲鳴ティファか? 怖がったりして可愛いじゃねえか。こりゃあヴィンセントも役得だな」
煽る煽る。
そして煽り耐性ゼロのクラウドは、暗闇の中ヴィンセントに抱きつくティファを想像して……
「ちくしょうー! そのおいしい役目は俺のはずだったのにー!!」
そう叫び、猛ダッシュ。
「ああ!? お、おい! クラウド、待ちやがれ!」
シドがあわてて追いかけた。


クラウドが血眼になってティファを探していると、暗闇の中にぼんやりと浮ぶ長い髪の人影。
意気揚々と近づき、その肩を抱いた。
「大丈夫か!? ティファ!」
そう言いながら抱いた肩がやけに逞しいと思ったその時、クラウドの耳に届いたのは低い声。
「……私はティファじゃない」
よくよく見ると、クラウドが抱きしめていたのはヴィンセントだった。
「ダ───ッ!! 紛らわしいんだよ! 髪切れよッ!」
クラウドは憤るままにヴィンセントを思いっきり突き飛ばす。
そして後を追って来たシドはそれを見て、腹を抱えて大笑いした。

「おい! ティファはどこだ?」
辺りをキョロキョロと見回すクラウドにヴィンセントは自慢のマントに付いた汚れを払いながら言った。
「先程まで私のそばにいたんだが……」
けれど、その一帯にティファの姿は見当たらない。
「先に行っちまったんだろ。オレらもさっさと行くぞ」
シドがそう言って、クラウドとヴィンセントを促した。


しばらく三人で歩いていると、ティファの声と男の声が聞こえた。
「ちょっと! 放してよ!」
「遠慮するな。ほら、私の腕に掴まれ」
あまり聞き慣れない、だけどどこかで聞いたことのある男の声。
あわてて駆け寄った三人がそこで見たものは……
嫌がるティファの手を取り、自分の腕に絡ませようとしている長い銀髪を靡かせたセフィロスの姿だった。
「セフィロス!!」
三人がほぼ同時に叫ぶとセフィロスはゆっくりと振り返り、そして妖しく笑う。
「何してんだよ! ティファを放せ!」
そう言って睨むクラウドにセフィロスは一笑する。
「おまえたちがなかなか私を追って来ないから、この私がわざわざ来てやったのだ。感謝ぐらいしてもよいのでは?」
得意顔のセフィロスにクラウドたちの開いた口が塞がらない。
「……で? ティファ捕まえて何やってやがるんだ?」
呆れついでに煙草を吸い出したシド。
セフィロスはニヤリと笑う。
「おまえたちが面白そうなことをやっていたからな。私も参加している」
「……」
もう誰も言葉すら発しようともしなかった。
そんな彼等にお構いなしの様子で、セフィロスは悦に入った演説を続ける。
「こういう場所はカップルで入るのが王道だ。私には分かる。それは私が神に選ばれた者だから。だからさあ、小娘よ、私の腕に掴まるのだ」
そうして再び嫌がるティファを引っ張ったその時、セフィロスの目の前に作り物のお化けが飛び出した。
途端……
「うわぁぁっ!!」
かつては英雄とまで呼ばれた男らしからぬ驚き方。
クラウドたちは一瞬で固まる。
そして少しの沈黙の後、ティファが冷ややかな視線をセフィロスに向けて言った。
「セフィロス……あなた本当は怖いんじゃないの?」
「な、なななにを言っているのだ! しかしまあ、今日のところはこれくらいで勘弁してやろう。さあ次の私の目的地はここだ。さっさと追って来るがいい!」
ヒクヒクと頬を引きつらせながらメモを投げつけたセフィロスは逃げるようにその場を去って行った。
残った四人はセフィロスが親切に残してくれたメモを見る。

『わたしのつぎのもくてきちは、こだいしゅのしんでんだ』

「…………」
クラウドたちの長い沈黙が続く。
そんな中、最初に口火を切ったのはシドだ。
「…おい、全部ひらがなだぜ」
「しかも頭の悪そうな下手くそな字だ」
冷や汗をかくシドの横でヴィンセントがそう言う。
「で、結局のところ、奴はなにしに来たんだ?」
クラウドがそう言うと、ティファがくだらないと言わんばかりの顔で言った。
「寂しがり屋で怖がりで、おつむの足りなさを見せびらかしに来たんじゃない?」
「だな」
一同、納得顔でうなずいた。


「じゃあ気を取り直して。ティファ、行こうか?」
クラウドはどさくさに紛れてティファを強引に連れて行く。
大好きな彼女と一緒にお化け屋敷という念願叶ったクラウドは、さっそく下心全開で彼女の肩を抱いてささやいた。
「ティファ、怖くないか?」
鼻息荒く、そして必要以上に近寄るクラウドにティファは困った顔をする。
「う、うん。大丈夫だから、だからもう少し離れてくれる?」
足元もおぼつかない暗闇で近寄るクラウドがただただ迷惑だった。
で、案の定ふたりは石に躓く。
「キャッ!」
「うわっ!」
倒れたクラウドがあわてて立ち上がろうと手をついたそのとき、掌に感じたやわらかい感触。
「な、なんだ? これは……」
あまりにもやわらかいそれを揉み揉みすると、同時にティファの悲鳴と平手打ちが飛んできた。
「キャ──ッ! クラウド、どこ触ってるのよッ!!」
平手打ちのショックからなのか、それともティファの胸を揉んだ嬉しさからなのか、涙と鼻血を流しながら放心状態のクラウド。
ティファの大悲鳴で集まった仲間たちは、詳しい事情を知らなくともクラウドの様子で大体のことは把握できた。
笑い転げるシドやバレット、ユフィ。
ヴィンセントやエアリス、ナナキに至っては呆れ顔。
そして、それを遠巻きで見ていたセフィロスはポツリと呟いた。
「いいな、楽しそうだな、仲間に入りたいよ、母さん……」


セフィロスの字が下手としているけど、私のイメージはめちゃくちゃ達筆なイメージです。

(2005.11.02)
(2018.11月:加筆修正)

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