7月7日

夜空を彩る星の川。
年一度の再会を待ちわびていたかのようにひときわ輝く二つの星。
今宵、七夕。
今も語り継がれる、むかしむかしの切ない星の物語。



「一年に一回しか会えないなんてさみしいね」
「もし俺たちがそうだったら、ティファはどうする?」
夜空を見上げる彼女に例え話を持ちかけた。
すると彼女は少し眉を曇らせながらしばし考え、そうしてからふと俺を見て照れくさそうに笑う。
「私だったらこっそり見に行っちゃうかも」
「見るだけ? 声はかけてくれないのか?」
「だって声かけたら、きっと離れたくなくなっちゃうよ」
「じゃあ、離れなければいい」
あまりにもかわいいことを言ってくれるから、そんな彼女の肩を抱き寄せた。
「んもう! それじゃ例え話にならないでしょ!」
頬を膨らませながらそう言ったのはきっと照れ隠し。
それに苦笑していると今度は彼女が聞いてきた。
「じゃあ、クラウドだったらどうするの?」
「俺?」
「うん」
「そんなの決まってる。俺なら引き離される前にティファを連れ去って逃げるよ」
それを聞いた彼女の歩む足がぴたりと止まる。
顔を見れば、頬は赤く染まっていた。
そんなわかりやすいリアクションは想定内。
俺は密やかに頬を緩める。
「えっと……じゃあ、そのときたくさんの人が邪魔をしようとしても?」
「もちろん、そうされても俺はティファを絶対に離さない」
我ながらクサいことを言うと思う。
そしてそんなクサいセリフでも、彼女は夜の闇のなかでもはっきりとわかるぐらいに顔を真っ赤にしていた。
やっぱりと思うそのリアクションは俺の予想をいい意味で裏切らない。
そうした彼女の次の出方を予想した。
彼女のことだからおそらく、からかわないでと照れ隠しにそう言ってまた頬を膨らませるのだろうか。
けれど彼女は――


「うん……私をさらって」
予想は見事に裏切られた。
俺の服裾をぎゅっとつかみながら縋るような瞳でそんなことを言われたら、俺が次に出る行動は決まってる。
―― さらってやる」
例え話と現実の見境をなくした俺は彼女を肩に担ぎ上げ、足早に愛車へ向かう。



短冊に願いを込める七夕。
願うことはただひとつ。
今宵、俺が彼女を壊してしまわぬようにと……


2006年七夕記念SS。
姫をさらう王子。そんなベタな設定が大好きです。

(2006.07.07)
(2018.11月:加筆修正)

Page Top