どっち?

真夏の太陽で輝くビーチ。
それに劣らない眩しすぎる彼女の水着姿。
類い稀なスタイルを持つ彼女は、当然のことながら皆の視線を一手に集める。
中でも、男たちの不躾な視線が俺の神経を逆撫でた。
気温の上昇と共に俺の苛立ちが極限にまで達したころ、俺は泳げない彼女を無理やり海のなかへと連れ出した。
そして今、浮き輪にしっかりと掴まる彼女は少しご機嫌ナナメだ。



「ティファ、拗ねたのか?」
「だって、こんな強引に……」
「俺が片っ端から人を殴るとこなんて見たくないだろ?」
あのままビーチにいたら俺は間違いなくそうしていた。
そんな修羅を燃やした俺の感情を知る由もない彼女は、きょとんとした顔をする。
そうした表情に俺は脱力。
「……なんでもない、俺のひとりごとだ」
そんなふうに自己完結する俺が可笑しかったのか、ティファはクスクスと笑った。
人の気も知らないで無邪気に笑う彼女。
ちょっとだけイジワルをしたくなった。
「なあティファ、もう少し沖に行ってみないか?」
彼女の浮き輪に腕を乗せて、その顔を覗き込む。
当然の如く、ティファは首を横に強く否んだ。
「いやよ! これ以上は行かない」
「俺がいるなら大丈夫だろ?」
「そのクラウドに意地悪されそうだもん」
「ひどいな、俺はそんなに信用ないのか?」
そう言いながら、ゆっくりと沖へ連れて行ってるのだから信用がなくて当たり前だと自分でそう思う。
「ク、クラウド!」
じわじわと沖へ連れだされていることに慌てるが、いくら文句を言ったところで泳げない彼女は俺の言うことを聞くしか為す術がない。
卑怯な手を使ってでも、彼女を独り占めしたかった。



浅瀬の人込みから少し離れれば、そこは二人だけの世界。
「さてティファ、ここで二者択一。俺と浮き輪どっち取る?」
「ほらっ! やっぱり意地悪するじゃない」
「意地悪じゃないだろ? どっち選んでもティファは溺れないんだから」
そう言っても、ティファは警戒心を抱いたままだ。
そんな彼女に苦笑しながらもう一度聞いた。
「どっち?」
「もし、浮き輪を選んだら?」
「そうしたら俺はいなくなる。だからティファは一人で浜辺まで帰るんだ」
「……意地悪じゃない」
小さな声でそうぼやかれて、俺はまた苦笑した。
「じゃあ、クラウドを選んだら?」
「ん、そうしたらこうなる」
意味深に笑んでティファの隙を誘い、浮き輪を奪い取った。
「あっ!!」
浮き輪がなくなって慌てるティファをすぐさま抱き上げる。
そしてホッと息つく彼女の濡れた髪をかき上げながら言った。
「溺れたくなかったら、俺から離れるなよ」
そう言わなくとも彼女はしっかりと俺にしがみついている。
彼女との間にあった邪魔な浮き輪を外して満足する俺にティファは言った。
「離れないから、放さないでね?」
泳げない彼女は赤らめた顔でそんな殺し文句を言う。
そして俺はそんな彼女の仕草や表情に呆気なく溺れるんだ。


2006.8月の拍手SSです。
運動神経抜群そうなティファだから泳げないことはなさそうだけど、あえてそういう設定で。

(2006.08.01)
(2018.10月:加筆修正)

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