夏の思い出

果てなく広がる海をオレンジ色のやさしい光がキラキラと輝かせる。
夕暮れ時の砂浜に寄せては返す夕波。
過ぎ行く夏を惜しむような静かな波音を聞きながら、砂浜に残ったあなたの大きな足の跡に合わせて自分の足跡を重ねる。
「ティファ」
呼ばれて顔を上げれば、やさしさを滲ませたあなたの笑顔。
そして差し出された手に掴まって一緒に並んで歩けば、ふたり分の足跡を夏の砂浜に刻む。



日に焼けて精悍さを増したあなたの横顔が夕焼けに映える。
この夏、私は何度もあなたに恋をした。
「俺の顔になにか付いてるのか?」
ジーッと見つめる私にあなたは少し苦笑した。
そうする笑顔も眩しくて……
「ずるいな。私ばっかりドキドキしてる」
「ほんと?」
「……うん」
「じゃあ、おあいこだな」
そう言ってあなたは照れくさそうに、そして嬉しそうに笑った。
そんな笑顔はやっぱり私をドキドキとさせて、私の歩む足を止まらせた。
それに合わせてあなたも歩みを止めて立ち止まる。
私の両肩にあなたの手が乗る。
まっすぐに見つめてくる瞳がとても甘やかでやさしい。
あなたはゆっくりと顔を傾けてきた。
顔を寄せてくるそんなあなたに見惚れて、瞳を閉じるのも忘れて見つめ続ける。
するとあなたは唇が触れ合う直前で止まった。
「……ティファ、目つむって」
そう言って、ちょっと困ったように笑う。
そんなふうに空恥ずかしそうにするあなたがかわいく見えて、私は首を横に振った。
「いや、クラウドを見ていたい」
そんなあなたをずっと見ていたいと思った。
するとあなたは目の端をほんのりと赤くさせながら冗談っぽく言う。
「……キス、しないぞ?」
「……いや」
ずっと見ていたいし、キスもして欲しい。
そんな勝手を言う私にあなたは更に困ったような照れたような顔をする。
「今日はわがままなんだな?」
ふっと笑ったあなたは、その大きな手で私の瞳を撫でるようにやさしく覆う。
そして魔法をかけるかのように、上から下へとゆっくり動かすあなたの手に導かれて目を瞑ると、
「そんなティファも好きだけど」
そう言ったあなたにやさしく唇を塞がれた。


イジワルだね。
滅多に言わない言葉を口にするあなたの顔、見たかったのに。
だから私は閉じた瞼の裏で夏のあなたを思い返した。
太陽の光を浴びて輝くあなたの笑顔。
やさしいキスを受けながら、あなたと過ごした夏の思い出をいつまでも忘れないようにそっと胸に思い刻んだ。


2006.9月の拍手SSです。

(2006.09.01)
(2018.10月:加筆修正)

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