再結成

まったくよ、この星はどーなってんだ!?
星を救う旅が終わったかと思えば、星痕症侯群とやらのわけの分からねえ病気が世界を脅かし、それが沈下したと思ったらこれだ。

赤土色の岩がむき出しになった荒野を夕陽が染める中、バレットはそんなことを考えながら廃墟と化した地ミッドガルを目指して車を走らせていた。



事の始まりはリーブ率いるWROからの緊急要請。
カームやジュノン、エッジ等を襲ったディープグラウンドソルジャーを撃退するとの命を受けたのだ。
―― ディープグラウンド
先代のプレジデント神羅が極秘裏で進めていた闇の組織。
人がどれだけ強くなれるのか、実験や研究を重ねていた機関だ。
原因は不明だが、地下の奥深くにいたそれらが今になって突如として現れ、各地で無差別に人々を襲い出した。
それらすべては神羅から派生された存在。
結局のところ、今も昔もこの世界を混沌の渦に巻き込むのは神羅なのだ。
そう考えると、地上部隊として今まさにその戦場に赴くバレットの表情は自然と険しくなった。

「見えて来たわ」
前方にはディープグラウンドの本拠地。
助手席に座るティファがインカムで運転席の後部に繋がれた荷室にそれを伝えた。
数年前まではミッドガル、いや、この世界の中心として栄えていた巨大企業ビルも今では見る影もない。
そんな成れの果てを見据えながらバレットはバックドアの開閉ボタンを押した。
同時に唸るようなエンジン音が鳴り響き、荷室で待機していたクラウドがフェンリルと共に飛び出す。
地上部隊の先陣を切るように前に走り出たクラウドの後ろ姿を見て、バレットは気合いを入れた。
「行くぜえー!!」
「はい!」
助手席のティファの返事を受けて、バレットはクラウドに遅れを取るまいと更に車のスピードを上げた。



この面子で闘うのは久しぶりだ。
長く辛い旅になると思わなかったあの頃、この三人で今と同じように神羅ビルを目指したことを思い出す。
それは今に至るオレたちの始まり。
あれから三年。
クラウドも今ではずいぶんと保守的な男になったものだと、前を走るヤツの姿を見て苦笑する。
というのも――


地上部隊として命を受けたのはオレたち三人。
上空部隊は飛空艇団を統括するシドを筆頭に、ヴィンセントやユフィらがすでにシエラ号にて待機している。
そして同じ仲間のナナキはエッジに残る人々の避難や誘導、救済を任された。
それなのにクラウドの奴はティファもエッジに残すと言い出したのだ。
死闘繰り広げる場へティファを連れて行くことに猛反対。
大切な家族ができた今、それを失う怖さにそう言いたくなる気持ちはオレだって分かる。
女、子供をわざわざ危険に晒すような真似はしたくないだろう。
だけどティファはそこら辺の女とは違う。
腕っぷしが強く、オレらと互角に渡り合うことのできる女だ。
ましてや、仲間のピンチにおとなしく待っているなんてことがティファにできるはずもない。
案の定、ティファはそう言うクラウドに異を立てた。
しかしクラウドもあれでなかなかの頑固者。
首を横に振り、ダメだの一点張り。
そんな奴をオレやナナキがなんとか説得して今に至っている。
散々手を焼かされたけれど、オレはそんなクラウドのことを実は嫌いじゃない。
いや、むしろ好感を持った―― というのは内緒だけどな。


「バレット!」
「おう!!」
クラウドにとって最も大切な女の呼び声にバレットは久しぶりの闘いで血が騒ぐまま奮起、応答する。
WRO特別仕様の車、シャドウフォックスに装備されたミサイルの発射準備に取りかかる。
そして車上にゆっくりとせり上がるミサイル口から、闘いの口火を切る砲弾を敵陣に向けて派手に発射した。



上空と地上からの総攻撃で、辺りは一瞬のうちに混戦の様相に覆い尽くされた。
あちこちに響く銃声や剣を討ち合わせる音、そして爆音。
それに塗れながらリーブと連絡を取りつつ来襲途切れない敵を倒し、バレットたちは後に続くWRO部隊の道を切り開いていった。

「ティファ、ヴィンセントと繋がったか?」
大剣を振りかざし、自身を盾にして闘うクラウドは後ろに守るティファにそう聞く。
「ダメ、繋がらない」
短い接続音のあとに続くのは不通を知らせる長めの電子音。
それを繰り返す携帯電話を見つめてティファはため息を零した。
「電波の届かないところにいるのか? どっちにしろ早く地図を転送してやらないとヴィンセントも困るよな」
バレットもクラウド同様、自分の後ろにいるティファを敵から守りながら銃をぶっ放していた。

シドの飛空艇と連絡を取り合っていた少し前、リーブからヴィンセントに地図を転送するように託かっていた。
ディープグラウンドの最深部に一人で立ち向かうヴィンセント。
それをナビしていたのはリーブと共に行動していた少女だった。
しかしその少女は飛空艇エンジン内部の異常発生と共に姿を消しているらしい。
それで先程からティファがヴィンセントに連絡を取っているのだが、一向に繋がらないでいた。

あのヴィンセントがそう簡単にやられるとは思えないけれど……
三人の脳裏に万が一の考えが過ぎった何度目かのリダイヤル、ティファの顔がパッと輝いた。
「あ、繋がった!」
「なに! 繋がった!? ヴィンセント!! 生きてっかーー!?」
バレットは歓喜のあまり思わず、携帯を持つティファの耳元で自慢の銃を高々と掲げて声を張り上げる。
その鼓膜が破れそうなほどの大声にティファは眉をしかめて手で耳を覆い隠した。
「生きてるから電話出てるんでしょ。耳元で大きな声出さないでよ」
「だははは! すまねえ」
頭を掻いて謝るバレットからすまなそうな様子はあまり見られなく、ティファは腰に手を当てながら大きく息をつく。
そうしてから、すっかり放ったらかしにしていたヴィンセントに慌てて告げた。
「ごめんね、いまクラウドに代わるわ」
言って携帯電話をクラウドに渡すと、ティファは小型の機械を取り出して転送の準備を始めた。
電話を代わったクラウドは携帯片手に剣を振りかざす。
自分を襲ってくる敵はもちろんのこと、準備をするティファを狙う敵にも素早く対処していた。
そんな状況でも涼しい声でヴィンセントと会話をしているのだから、バレットは改めてクラウドという男の状況を見る冷静さと戦闘能力の高さに脱帽するのだ。
いや、愛の力がそうさせているのか?
ヒーローさながらティファを守るクラウドを見てそんなことを思い、バレットはニヤニヤと頬を緩ませた。
そんな隙を狙われて、元は人間だと思われるモンスターが牙を剥いてバレットに飛びかかる。
バレットは慌てて銃を構えたが、それよりも早くクラウドの大剣が敵の体を貫いた。
自分の身ぐらい自分で守れ。
そう言いたげなクラウドの冷たい視線を受けて、バレットはすまねえと苦笑い、再び闘いに集中する。
そしてある程度周りの敵を片付けたところで、バレットとティファはクラウドの電話に耳を傾けた。



『そっちは大丈夫なのか?』
ヴィンセントの心配する声がバレットやティファにも聞こえて、三人は顔を見合わせて苦笑した。
俺たちを誰だと思ってるんだと言わんばかりにクラウドは肩を竦めて言った。
「問題ない」
「そっ! こっちは任せといて」
クラウドの持つ携帯に顔を寄せてティファが素早くそう付け足し、そしてふたりは目で相槌を打ちながら携帯をバレットに向けた。
それを受けたバレットはニヤリと力強くうなずく。
「うおぉぉー! いくらでも来やがれ!!」
ヴィンセントへのメッセージを銃を掲げて乱射することで表した。
これでいいか?と得意気な顔を向けるバレットに、クラウドとティファは笑顔でうなずく。
三人それぞれのメッセージを受けたヴィンセントから、ふっと息を零すような笑み声。
それを聞いてクラウドはティファに携帯電話を返した。

「ヴィンセント、今から神羅ビルの地図を送るわ。ディープグラウンドは下よ。とにかくエレベーターでどんどん降りるの。頑張っ…」
「頼むぜ! ヴィンセント!!」
話してる途中、ティファは突然バレットに携帯を持つ手をつかまれて割り込みされた。
「もう! なにするのよ!」
そんな二人のやり取りをそばで見ていたクラウドの表情は険しい。
ティファの手をバレットが握ったままなのが原因だ。
クラウドはムッとした顔のまま、バレットの手をティファの手から払いのけ、かわりに今度は自分が彼女の携帯を持つ手を握りしめる。
「じゃあな、死ぬなよ」
通話口に向かってクラウドはそう言い、ドタバタ通信の最後を締めくくる。
そうしてから、睨むようにバレットを見た。
「気安く女の手を握るな」
憤然たる口調で一言そう言い捨てて、ぷいっと横を向いた。
そんなクラウドにバレットは一瞬唖然としながらも、すぐにその顔をにやけた顔に変える。
そうして、そっぽを向くクラウドの肩に腕をまわして引き寄せた。
「おい、クラウド。遠回しに言わねえでちゃんと言えよ」

愛娘のマリンから、いろいろと話は聞いている。
クラウドはああ見えて、実はかなりのやきもち妬きだということを。
そして今、そんなクラウドを目の当たりにした。
いつもクールにしていた男がほんの些細なことでやきもち。
バレットはそれが可笑しくて堪らなかった。
そんな締まりのない顔を野放しにするバレットに、クラウドは冷ややかな視線を向ける。
「俺のことより、少しは今の状況に目を向けたらどうなんだ?」
言われて周りを見渡せば、自分たちの周囲はすっかり敵に囲まれていた。
慌てて銃を構えるバレットにクラウドは注意深く敵に目をやりながら、けれど口元には意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「念願叶ってのリーダー、なんだろう?」


リーブは今回の地上部隊の指揮をバレットに任せた。
それには特別深い意味はなく、ただ三人の中で一番年上であるバレットの顔を立てたまでのことなのだが、もちろんそんなことはバレットは知らない。
リーダーに拘っていた旅の初期、バレットは不本意ながらもクラウドにそれを委ねる形となった。
そうした経緯を知ってての嫌味を含ませたクラウドの言い方にバレットは苦笑する。
「へっ! 分かってんじゃねえか。ならクラウド、そのリーダー命令だ。さっきのことちゃんと言ってみろ」
今度はバレットが意地悪く笑う。
職権濫用もいいところだと、クラウドは呆れたように肩を竦めた。
「ああ、あんたの思う通りだ。ティファに気安く触るな」
態度は変わらず憎たらしい。
けれども、素直に口にした言葉がバレットを満足そうにニヤリと笑わせた。
そうしてその笑みを不敵な笑みに変えながら周囲の敵に狙いを澄ませる。
「よし! じゃあさっさとここを片付けて、オレらもヴィンセントに続くぞ!」
それを受けてクラウドも剣を握り直し、その碧い瞳を敵に向けて鋭く光らせる。
「私もやるわ」
ティファはグローブをはめ直し、その手をギュッと拳に変えて構えた。

出会った当初は犬猿の仲だった二人が少しずつ互いを認め合い、そして今のような関係になった。
バレットとクラウドのやり取りに懐かしい日々を思いだし、昔のように三人で一緒に闘いたいと思ったティファは早くも格闘モードに入っている。
その凜とした顔つきの中にある強気な眼差し。
昔と変わらない彼女のそれをちらりと見たクラウドは苦笑いを浮かべた。
「俺の目の届く範囲で暴れろよ」
「はい!」
そんな会話を背後に聞いていたバレットはニヤリと笑んだ。
「おらおら、お二人さんよ、イチャイチャするのは後回しだ! 行くぜー!!」
リーダーらしい掛け声を皮切りに、三人はあの頃と同じように目的をひとつにして一斉に敵へと立ち向かって行った。


2006年バレット誕生日記念小説です。
DCは仲間たちが一致団結するとこがすごく好き。
そしてあの電話の声だけのイベントにニヤけまくり。
今回のお話はそんなシーンに妄想を付け足してこのようなお話にしてみました。

(2006.12.14)
(2018.10月:加筆修正)

Page Top