守りたいもの

出発前のミーティング。
メンバー全員の顔に緊張が走る。
あのマテリアを装着する者の名が、今まさにリーダーの口から告げられようとしているのだ。
そうして皆が固唾を飲んで見守る中……

「今日の装着はシドだ」
「んだぁ!? またオレ様かよ!」
指名されたシドは露骨にイヤな顔をし、それ以外のメンバーはほっと安堵の息をついた。
そうした中、リーダーのクラウドが涼しい顔で言う。
「しょうがないだろ、誰かが装備しなきゃならないんだから」
「だったらクラウド、おまえが装備しろよ。おまえのほうが若いんだし体力あるだろが」
シドがそう言うと、クラウドはいつものお決まりポーズ、肩を竦めて言った。
「今シドがメインで使っている武器、三倍だろ? マテリアの成長にはもってこいなんだ」
「ちくしょう! もう勝手にしろってんだ!!」
上手いこと言いくるめられた感にシドはあきらめ半分、自棄半分でボヤいた。



クラウドたちの旅に重要なマテリア。
個々の戦闘能力は高い集団だから、ある程度のことはマテリアなしでも事なきを得たが、マテリアのサポートがあればより楽に戦闘に臨めているのも確か。
そんな便利なサポートが多いマテリアの中でも、仲間たちがあまり付けたがらないマテリアというものが少なからずあって、そのひとつが『かばう』のマテリアだった。

『かばう』のマテリアはその名の通り、自分の意思とは無関係に体を張って仲間たちをかばう。
しかしこれは、はっきり言ってしんどい。
自分の体力がありあまってる時ならまだしも、自身が弱っている時でもこのマテリアは発動する。
ヘタをすれば、そのかばうが致命打となって戦闘不能になることもあるのだ。
装備する者にとってなんの利点もない。皆が嫌がる理由はそれだった。
しかし旅の資金が底をつきそうな今、手っ取り早く資金を集めるにはマテリアを売るのがいちばんだと判断した一行。
マテリアは最大限まで成長させれば、かなり高額な値が付く。
ちなみに『かばう』の最高売値は70000ギル。
そこで、あまり必要としない『かばう』のマテリアを売ろうという話になったのだ。
けれど皆が避けていたマテリアなだけあって、全然成長していない。
それでここ最近はこれを誰が装備するかで揉めていたのだ。



『かばう』を装備したシドは、クラウドとエアリスのパーティーにいた。
モンスターと戦うたび、シドはどんなにしんどくても、自分の意志とは無関係に体を張って二人をかばっていた。
そして戦闘が終わると、エアリスがすぐさま駆けつけて回復魔法でシドを癒やす。

「シド、お疲れさま」
「ああ、いつもすまねえな姉ちゃん」
まいったという顔で座り込むシドにエアリスは微笑んだ。
「こんなこと言っていいのかわからないけど、かばってくれるシドってカッコいいよ」
すると、それまで話に加わっていなかったクラウドが、その言葉にだけはピクリと反応した。
「エアリスちょっと聞くが、かばってくれる男というのはカッコいいものなのか?」
「そうよ。だって体を張ってかばってくれるのよ。そんな状況、女の子だったら誰でも憧れるし、そうする男の人はみんなカッコいいと思うわ」
それを聞いてクラウドは、昔ティファが言ったあの言葉を思い出した。

―― 私がピンチのときは助けに来てね

瞬間、クラウドは一人納得顔をする。
なるほど、ティファは俺がヒーローみたいに体を張るカッコいい姿を期待しているんだな。それを見せれば、ティファの俺に対する好感度はぐんと増すに違いない。
ここ最近、ティファに対していいとこなし、出番なしのなしなしづくしのクラウドは邪な考えに一人ニヤけた。



翌日、いつものように仲間たちが集合し、今日の『かばう』担当に気を揉んでいるとクラウドが言った。
「今日は俺が装備する」
いつもならリーダーの特権をフルに活用して、ただ命令するだけのクラウドに仲間たちは驚愕する。
何を企んでいるのかは知らないが、リーダー自らが進んで装備すると言うのだから誰も文句は言わない。
いやむしろずっと装備しててくれと、クラウド以外のメンバー全員が心の中でそう呟いていた。
そしてクラウドはパーティー編成でもリーダーの特権をフル活用し、ティファを自らのパーティーに入れる。
俺の体を張ったかばうをしっかり見ろよ、ティファ!
心中そう叫んで、鼻息荒く出発した。



普段ならモンスターが多く出没する森の中は避けて通るのだが、今日のクラウドはガンガン進んだ。
それはもちろんより多くの戦闘をこなし、その都度ティファをかばってカッコいいと言ってもらうためだ。
しかしいざ戦闘に入っても肝心のティファをかばうことはなく、むしろこの際どうでもいいバレットばかりをかばっていた。
そう、クラウドはマテリアの仕組みを完全に忘れていた。
成長をしていない初期の『かばう』は、その機能をランダムにしか発動しないことを……



「ちょっとクラウド! ちゃんとマテリアつけてるの!?」
バレットばかりをかばうあまりにも偏ったそれにムッとしながら、ティファは自分自身とバレットをかばって傷を負うクラウドに回復魔法をかけながらそう言った。
「つ、つけてるよ。おかしいな、これ壊れてるのか?」
自分の思惑通りにいかないマテリアを疑う。
そんなクラウドの肩をバレットがガンガンと乱暴に叩いた。
「壊れちゃいねーだろ。オレをしっかりとかばってくれてるんだからよ! カッコいいぜ、リーダーさん!」
言って欲しかった言葉は言われなくてもいい奴に言われてしまい、クラウドはガックリと肩を落とした。


そんなことがありながらもクラウドたちは戦闘をいくつかこなし、そしてしばしの休憩をとる為、森の中の拓けた場所に出た。
「クラウド、オレはあっちで昼寝してるからな。出発する時には声をかけてくれ」
そう言ってバレットは陽当たりの良さそうな場所へと向かって行った。
あとに残ったのは、少し気まずい雰囲気のクラウドとティファ。
そんな二人の耳に聞き慣れた特徴のあるしゃべり方をする声が聞こえた。

「こんな所で会うなんて奇遇だな、と」
振り返ると、そこにはタークスのレノとルードが立っていた。
クラウドはすぐさま立ち上がり、ティファを自分の後ろにおいてレノたちの視線から遠ざけた。
「俺たちの後をつけて来たのか?」
表情を険しくしたまま背中に担いだ剣を引き抜こうとすると、レノはニヤリと笑う。
「そう殺気立つなよ、と。俺たちはいま休暇中だぞ、と」
そう言ってレノは、相方に同意を得るように視線を投げる。
それに応えてレノの相棒であるルードは黙ってうなずいた。
しかしそれでも、敵であるレノたちを前にクラウドは気を緩めない。
ティファを後ろにかばいつつ、背にある剣をいつでも引き抜けるようにその手は柄を握ったままだ。
そんなクラウドにレノは薄笑いを浮かべた。
「信用されてないんだな、と」
そう言い残して、レノとルードはとくに何をするわけでもなく森の奥へと去って行った。
その後ろ姿が見えなくなるまでクラウドはその態勢を崩さない。
そしてレノたちが完全に見えなくなったところでクラウドはそっと息をつき、柄を握っていた腕をようやく下ろした。
そうしてから、自分の後ろに立つティファに笑みかける。
「何しに来たのかよく分からないが、とりあえず無駄な戦闘は避けられてよかったな」
そう言うクラウドにティファは顔を赤くした。
「ありがと、クラウド」
「ん?」
クラウドはなぜ礼を言われているのか分からずに、きょとんとする。
そんなクラウドを見て、ティファはクスッと笑って言った。
「今、タークスから私をかばってくれたでしょ」
クラウドがとっさに自分の前に立ち、守ってくれたこと。
そしてそれはマテリアの力ではなく、クラウド自身が無意識にそういう振る舞いをしたということ。
ティファにはそれがとても嬉しかったのだ。
「クラウドの背中、とっても頼もしくてかっこよかった」
頬を染めてそう言うティファよりも、それを聞くクラウドのほうがとても赤い顔をしていた。

なんの前触れもなく、言ってもらいたかった言葉をティファから聞くことができた。
策略のない自らの行動。
意識していなかった分、その言葉はとても照れくさかった。
そんなクラウドを見て、ティファははにかみながら言う。
「これからも守ってね」
クラウドは力強くうなずいた。

そして『かばう』のマテリアはその後、マテリア成長三倍の武器を持つシドの担当になったのは言うまでもない。


13000打のキリリク小説です。
カッコいいと言われて照れるクラウド、というリクエストを頂いて書いたお話です。
レノ&ルードの謎行動についてのツッコミはなしでw

(2006.03.05)
(2018.10月:加筆修正)

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