秋色

野山は色づき、日ごと深まる秋の気配。
空気は澄み渡り、空はどこまでも高い。
赤や黄色の落ち葉が舞う中、彼女の膝を枕に過ごすうららかな午後のひととき。



「ねえクラウド、草相撲やろう」
彼女はそう言って手に持っていた茎の長い草をヒラヒラと目の前にかざした。
「草相撲?」
初めて聞くそれに身体を起こして聞き返す。
「うん。茎と茎を絡めてお互いで引っ張り合うの。茎が切れたら負けよ」
彼女らしいかわいい遊びの提案に即座にのった。
「よし! 手加減しないからな?」
「望むところ」
クスクス笑う彼女の声とともに、俺たちの草相撲は始まった。



相手の出方を見て押したり引いたりするそれは、まるで恋の駆け引きのよう。
やる前は多少手加減してあげるつもりでいたけれど、俺はそれを忘れてすっかり夢中になっていた。
そうしている内に彼女の茎がプツンと切れる。
「きゃっ!」
茎が切れた反動で後ろに倒れた彼女。
そうしてすぐに身体を正して慌ててスカートの裾を押さえる。
そうする顔は真っ赤だ。
そしてとても気まずそうにこちらを見つめて言う。
「……見えた?」
全部を言わないでも、それが何を意味するのかなんてあまりにも明白。
「……ううん」
ひとまずそう答えると、彼女はほっとしたように息をついた。
そして朱を残した頬ではにかむ。
それがあまりにもかわいい。
そんなかわいさと疑うことなく簡単に俺の言うことを信じてくれる素直さ。
ちょっとだけそんな彼女をからかってみたくなった。
「見てないけど……もう一回やろうか?」
見ていないことをわざわざ強調した上で再戦を口にする俺に、彼女はきょとんとした顔をする。
そうしてから、その顔をじわじわと羞恥の色に染めた。
「見えてた……の?」
にやりと笑う俺を見て彼女は確信したようで、真っ赤になった頬を両手で隠して恥ずかしさを全身であらわした。
「やっ! クラウドなんて嫌い!」
首を激しく振って彼女は俺に背を向けた。
恥ずかしさ極まっての行動だとわかっていても、拒否感を全面に出したその背中に不安が募る。
「ティファ、怒ったのか?」
小さな背中は返事をしてくれない。
膝を付き、そろりと彼女の顔を覗き見るように近づいた。
「俺のこと嫌いになった?」
「嫌い!」
彼女は深く膝を抱えてプイッと横を向く。
そのふくれた頬にそっとキスをした。
「俺のこと嫌い?」
「……嫌い」
少しやわらいだ口調と未だ視線を逸らせたままの横顔。
俺はさらに回り込んで今度は唇にキスをする。
「嫌い?」
「……」
彼女の頬はもみじにも負けないくらい赤く染まった。
そこに拗ねた感じはもうないのに、彼女は俺が欲しがっている言葉を言ってくれない。
彼女の長い黒髪にそっと触れ、つややかなその髪をやさしく撫でながらもう一度キスをした。
「俺のこと、嫌い?」
「……好き」
ずるいと言わんばかりに恨めしげに見る彼女からの好きという言葉。
思わず苦笑する。
そして、イジワルしてごめんと言えない代わりに彼女をぎゅっと抱きしめて言った。
「俺も」



そんな彼女を抱きしめながら空を仰げば、夕焼け空に赤トンボ。
短い秋の季節は、すべてを彼女の瞳と同じ色に染め上げる。
そして俺は季節に関係なく、彼女がそばにいるだけで自分の頬をその瞳と同じ色に染めるのだ。


2006.10月の拍手お礼SS。
キスでご機嫌直しするクラウド。

(2006.10.01)
(2018.10月:加筆修正)

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