プレゼント

―― 親父と一緒に過ごした記憶がないから父親ってどんなものかよく分からないんだ
初めの頃、子どもたちとの接し方が分からなくてクラウドがそう呟いていた。
あれから数年――
もうすぐクリスマス。



「子どもたちは今年のクリスマス、何が欲しいんだ?」
そう聞くクラウドにティファはちょっとだけ苦笑いながら言った。
「マリンはね、くまのぬいぐるみが欲しいんだって」
クラウドもバツが悪そうに苦笑する。
マリンがそれを欲しがる理由に思い当たる節があるのだ。
その理由を知るティファもまたクスクスと笑う。
「あのくまさん、マリンのいちばんのお気に入りだったから」
「だよな。俺もあんなになるとは思わなかった」
クラウドの言う“あんな”を思い出して、ティファはさらに笑う。



事は数週間前――
ティファは用事で家を空け、留守番をすることになったのはクラウドとマリン。
家の中で、マリンは昔から大事にしていたくまのぬいぐるみを抱いて遊んでいた。
特に何をするでもなかったクラウドは、マリンが抱くだいぶくたびれていたそのぬいぐるみを見て洗濯することを提案した。
ぬいぐるみを洗濯することに少し不安があったマリンだったが、せっかくのクラウドからの提案。素直に従った。
しかし、なんとなくあったマリンの悪い予感。
それは見事に的中した。
洗い終えて、洗濯機から取り出したくまのぬいぐるみ。
ふわふわでとてもやわらかだったそれは、クシュクシュに縮んだなんとも情けない姿に変わり果てていたのだ。



「あれにはほんと、参ったな」
その時を思い出してクラウドは苦々しく笑う。
ティファもまた、その帰宅時に見た号泣するマリンとそのそばで困った顔で途方に暮れるクラウドを思い出して笑った。
良かれと思ってしたことが裏目に出て、結果マリンを悲しませた。
しかもそれだけでは収まらず、クラウドはマリンから数日間、口をきいてもらえなかったのだ。
それが相当堪えたようで、今でもその件は苦い思い出となっている。
そしてクラウドはあれ以来、普通の洗濯もしなくなった。


「デンゼルは何が欲しいんだ?」
「デンゼルはね、フェンリル二号」
「フェンリル二号?」
「うん、自転車が欲しいみたい」
本物のバイクを欲しがるにはまだずいぶんと早く、だから自転車と聞いてクラウドはほっとした。
そんなクラウドはデンゼルにとって憧れであり、ヒーローなのだ。
そのヒーローに少しでも近づこうと、デンゼルはクラウドのやることはなんでもまねていた。
嫌いで食べられなかったグリンピースも、クラウドが食べるとデンゼルもちゃんと食べるようになった。
しかしそれは良い例の時であって困るのは逆のパターン。
ピーマンが苦手なクラウドは、いつもそれをこっそりと皿の端に寄せて食べないでいた。
それを見たデンゼルはその行為までまねて、食べられるはずのピーマンを食べなくなったのだ。
子どもの手本でなければならないクラウドにティファはお説教をした。
以来、クラウドはピーマンを残さず食べる。
けれど、苦手なピーマンを好きになった訳ではないから、それを食べる時のクラウドの顔はいつも微妙だ。
それを見て、ティファは毎回笑いを堪えるのに苦労する。



「よし! じゃあ今年のプレゼントは大きなくまのぬいぐるみとフェンリルに負けないくらいのかっこいい自転車だな」
そう言ったクラウドの顔はすっかりお父さん。
ぬいぐるみを洗濯機で洗ってしまったり、子どもみたいにピーマンを残したりするけれど、子どもたちのために自分なりのやり方や努力で一生懸命お父さんの役目をしようとしてくれる。
不器用だけど、やさしい愛情を持ったお父さん。
そんなクラウドを見ていると、ティファは愛おしい気持ちでいっぱいになって――



「ねえクラウド」
「ん?」
「大好きよ」
新米パパにはキスのプレゼント。


2006年クリスマス記念小話です。

(2006.12.25)
(2018.10月:加筆修正)

Page Top