winter kiss

木々の葉もすっかり舞い落ちた公園のベンチで温かい缶コーヒーを片手に彼女を待つ。
仕事が早く片付いた今日、彼女を外に呼び出した。
電話越しの彼女の声は、突然の誘いが嬉しかったのか弾んでいたのを思い出す。
吐く息は白く、肌を掠める風は冷たいけれど、そんな彼女を思い出しながら待つ時間は暖かい。



「クラウドー」
真っ白なコートに身を包み、赤い色のマフラーを揺らせて駆けてくる彼女の姿は寒々とした冬の公園に明るく色を差した。
そうしてそばまでやって来た彼女の弾む息に俺は苦笑する。
「急いで来たのか?」
「ううん」
首を振りながら笑ってそう言うけれど、それは俺に気を遣わせないための小さなウソ。
そのウソに口元を緩ませながら、となりに座って息を整える彼女に缶コーヒーを差し出した。
「飲む?」
「……うん」
飲みかけを意識して一瞬だけ躊躇した返事。
そんな彼女は少し緊張した面持ちでコーヒーを一口飲んでから、その飲み口を軽く指で拭う。
そして照れた笑顔と一緒に缶コーヒーは返された。
「美味しい。ありがと」
彼女は普通に振舞っているつもりなのだろうが、俺から見たらあきらかに意識し過ぎてぎこちない。
そんなティファを見ていると俺はからかいたい衝動に駆られてしまう。
―― 俺の飲みかけだからだろ?、と。
そんなことを言えば、彼女はきっと顔を真っ赤にして何も言わなくなるだろう。
そういう彼女を見るのも好きだけど、いじめる為に呼び出した訳じゃない。
だから口にしかけたイジワルな言葉は、彼女から返された缶コーヒーで喉の奥へと流し込む。
それなのに、彼女はコーヒーを飲む俺を見て、ひとり顔を赤くするんだ。
考えていることが丸わかりなそれが可笑しくて、せっかく押しやったイジワルな言葉はいとも簡単に顔を出した。
「間接キスだ、なんて思ってる?」
パッと色付く彼女の頬。
図星ですと言わんばかりのリアクションが俺の肩を震わせた。
ここが公園でなければ、間接的ではなく直接彼女にキスをしてその頬をもっと赤くさせてやりたいところだ。
そう思う俺は、ちらほら見える人影を恨めしく思った。


そんな彼女をふと見れば、その手が防寒されていないことに気づく。
「ティファ、手袋は?」
「あー、うん、慌てて出て来たから忘れちゃって」
先程の小さなウソのことはすっかり忘れている。
それがまた俺に苦笑いさせた。
「やっぱり急いで来たんじゃないか」
「あっ!」
気づいて口元を両手で覆うそんな彼女が可愛くて仕方がない。
「ほらティファ、左手出して」
言われて素直に差し出す左手に俺の左の手袋を嵌めた。
「それじゃクラウドが……」
そう言って心配する彼女の右手を掴み、俺のコートのポケットに突っ込む。
ポケットの中は彼女の右手を握る俺の左手。
冷えた小さな手をぎゅっと握りしめて彼女の顔を覗き見た。
「こうすれば問題ないだろ?」
「……うん。暖かいね」
「それは手袋の方? それともポケットの方?」
からかうつもりで聞いたのに、彼女は頬をほんのりとピンク色に染めて嬉しそうに言うんだ。
「両方!」
そんな顔をして言うのは反則だろう?
そう思う俺に彼女はクスクスと笑う。



陽が早くに沈む冬の公園に人影はもうない。
彼女の前髪が北風で舞い上がり、露わになったその額に俺は素早くキスをした。


からかってるつもりでも、ティファ相手だと振り回されてるのはクラウドの方。

(2007.01.03)
(2018.10月:加筆修正)

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