June bride

「六月に結婚する花嫁さんは幸せになれるのよ」

遠い昔、純白のウェディングドレスを纏った花嫁さんを見て惚けていた幼い私にママがそう言った。
「ママがパパと結婚したのも六月だったの」
「じゃあ、ママは幸せ?」
そう聞く私をぎゅっと抱きしめて、ママは私の大好きな笑顔で言った。
「もちろん。やさしいパパとかわいいティファ、大好きな二人に囲まれてママはとっても幸せ」


―― ママ、パパ、あのね
明日、私は花嫁さんになるの
とても大好きで、とても大切に想う人と結婚するの



「ティファ、そろそろ戻ろうか?」
夜空いっぱいに輝く星を見上げていた私にクラウドはやさしい微笑みを向けてそう言った。
その笑顔にうなずき、差し出された大きな手につかまってゆっくりと歩く。
歩幅を合わせて歩いてくれるやさしさが、私をふわりとやわらかい気持ちにさせてくれた。
「ちゃんと報告できた?」
「え?」
「お父さんとお母さんに報告してたんだろ?」

夜の散歩に連れていってとおねだりしたのは私。けれど、パパとママに結婚の報告をしたいからとは告げていない。
「どうしてわかったの?」
「ティファの考えてることならわかるよ」
眉を上げて少し得意気に笑った顔は、すべてを知り尽くしていると言わんばかり。
大好きなひとにそうされるのはとても心地よくて、繋いだ手をぎゅっと握りしめた。
「うん、ちゃんと報告したよ」
「俺も報告したんだ。ティファのお父さんとお母さんに」
「私のパパとママ、に?」
聞き返すと、クラウドは少し照れた顔でうなずいた。
「うん……ティファを貰います、って」
気恥ずかしさとうれしさ。他にもたくさんの感情が胸いっぱいに交ざり合って、なぜだかジワリと涙が溢れ出した。


最近の私は感傷的で涙もろい。
悲しいとか辛いというわけではないのに、気がつくと涙を流しているときがある。
自分でもどうして涙が出るのかわからない、そんな原因不明な涙を流す姿をクラウドには見せられない。
クラウドはやさしいから、涙する私を見たら必ず心配する。
だから繋いでいた手をそっと放して彼の後ろに回り込み、その大きな背中をトントンと叩いた。
私の突然のそうした行為は彼を苦笑させる。
「なんだよ、ティファ」
「だって、クラウドが恥ずかしいこと言うから……」
そうごまかして、そのまま彼の背中を押しながら涙を隠して歩いた。

しばらくそんなふうにして私に押されるまま歩いていたクラウドだったけれど、彼は突然その身体を捻らせた。
自分の両腕にあった彼の重みがなくなり、その反動で私の身体は前のめりになる。
けれどすぐに私はクラウドの腕に抱きとめられて転ぶことからはまぬがれた。
「ティファ、また泣いてる」
暗く沈むそんな声に顔を上げれば、さっきまで笑っていたクラウドの顔は憂いに満ちた切ない表情に変わっていた。
「どう……してわかったの?」
度々泣いていたことは前から気づいていたというクラウドの口ぶりが、私の問いかける声を震えさせる。
「言ったろ、ティファのことならなんでもわかるって」
先ほどと同じように言われたけど、その表情は前の得意気な顔とは違ってやるせないといった笑み。
「だけど、なんで泣いてるのかわからない。……不安、なのか?」
そう言ったクラウドのほうがとても不安そうな顔をしていた。

―― 俺と結婚するのは不安?
碧い瞳がそう言っている。
私はあわてて首を振った。
「違う。そういう気持ちじゃない。そんなんじゃないの」
誤解されたままではイヤだと、自分でもわからない涙をポロポロと零しながら必死にクラウドに伝えた。
そうする私の濡れた頬をクラウドの大きな手がやさしく包む。
そして少し困ったように、だけどこの上ないやわらかな眼差しで、私の言った言葉に対してうなずきながら涙を拭ってくれた。
「ティファに泣かれたら困るんだ。……今さっき誓ったばかりだから」
私を泣かせない―― そうパパとママに誓ったと言う。
それを聞いた途端、たった今涙を拭ってくれた頬にまた新たな涙が伝った。
ますます困った顔をするクラウドを前にして私はひとりあわてる。
「ごめんっ…違うの。ごめん……なさい」
これ以上、クラウドを困らせたくないのに涙は止まらない。
だから溢れ出る涙を見られないように両手で顔を覆い隠した。
そうするしか手段がなかった私の腕はクラウドにやさしく掴まれた。
そして、顔を寄せてきたクラウドに唇を重ねられる。
それは波立っていた気持ちが静かに引いていくようなやさしい口づけ。
それに浸るように瞼をゆっくりと閉じれば、最後の一雫がそっと頬を伝った。


―― パパ、ママ心配しないで
私が泣いているのは幸せだから
きっと幸せすぎて涙が出るの
だから、クラウドを責めたりしないでね





気の置けない仲間内だけの結婚式。
クラウドも私も派手なことは苦手なほうだったから、当初は結婚式も挙げずにふたりだけで終わらせる予定だった。
けれど仲間たちがそれを許さず、結果、私たちは小さなゲストハウスで身内だけの式をすることに決めた。
その洋館の庭には小さなチャペルもあり、たくさんの花が咲き乱れる緑豊かな庭でのガーデンウェディング。

「ティファさん、とっても綺麗よ」
全ての準備を終えた控室でシエラがやさしく微笑む。
私たちよりも少し前にシドと結婚したシエラが最後の手伝いをしてくれた。
「ありがとう、シエラさん」
結婚を決めてからもいろいろと相談に乗ってくれた人生の先輩でもあるシエラに感謝の意を伝える。そうしてから改めて、大きな鏡に映るウェディングドレスに身を包んだ自分の姿を見つめた。

優美でシンプルなドレスは、幼い頃に見せてもらったママのウェディングドレスと似ていて一目でこれと決めた。
―― パパとママに見てもらいたかったな……
窓越しから六月にはあまり見ることの少ない青い空にパパとママを見ていたら、シエラがそっととなりに立った。
「ねえティファさん、どうして六月の花嫁は幸せになれるって言われてるか知ってる?」
昔、ママから聞いた言い伝え。
けれどその意味まではわからなくて首を振ると、シエラはにっこりと笑ってから晴れ渡った空を見上げた。
「この季節、雨が多いでしょ? そんな六月の太陽は特別なの。その特別な太陽の祝福を浴びた花嫁は光の輝きで守られて幸せになれる、そう言い伝えられてるのよ」
そう言って、シエラは私の顔を覗き込んでウインクをした。
「だからね、今日太陽の恵みをいっぱい受けるティファさんはとっても幸せな花嫁さんになるわ」
穏やかな笑みで教えてくれた言い伝え。
そんな素敵な話はまた私の目に涙を溢れさせた。
「あっ、やだ、ティファさん泣かないで。ティファさんに泣かれたら私、クラウドさんとシドに怒られてしまいます」
クラウドはともかく、シドならありえなくもない姿が安易に想像できた。
オロオロするシエラにごめんなさいと謝りながら、私は泣きながら笑った。



太陽の光でキラキラと眩しく輝く緑豊かな庭。
大きくて温かいクラウドの手に引かれながら、ガーデンへと続く花と緑のアーチをくぐり前に進む。
アーチを抜けると、旅を共にしてきた大切な仲間たちがとびきりの笑顔と大きな歓声で私たちを迎えてくれた。
そして牧師さんの待つ祭壇へと向かう。
牧師さんの話を聞く間も、クラウドはずっと手を繋いでいてくれた。
時折、その手にぎゅっと力がこもり私の気持ちを落ちつかせてくれる。
そんな私たちに牧師さんのほうが照れて笑っていた―― なんて知ったのは後から聞いた話。

いろんなことがあったから。
たったの二十年とちょっとしか生きていない私たちだけど、本当にいろいろとあったから。
だから、これからも続く長い人生を二人で共に歩む、そう決めた
楽しいことや嬉しいこと、二人ならそれは二倍になる。
哀しいことや辛いこと、二人ならそれを半分にしよう。
あの思い出の給水塔のときと同じくらいの満天の星空の下でクラウドがそう言ってくれた。
だから牧師さんに問われた誓いの言葉に「はい」としっかり応える。
二人で選んだマリッジリングを互いの指にはめて、誓いの口づけをするためにクラウドが私のフェイスベールをゆっくりと上げた。
目が合って、やさしく微笑むクラウドの顔は涙でぼやけてよく見えない。
その涙をクラウドの指でそっと拭われて唇を重ねた。
と、同時に鳴り響く祝福の鐘と仲間たちの歓声。
口づける直前、私だけに聞こえる声で囁かれた愛の言葉。
それらすべてが私の耳にいつまでも心地良く残る中、クラウドからのやさしい誓いのキスを受けた。



「あんな長いキス、見てるこっちが恥ずかしくなったよ」
式が終わり、仲間たちに囲まれながらの談笑中、ユフィに早々からかわれた。
「目の前の牧師さん、恥ずかしそうに笑ってたよね?」
そう言ったナナキにリーブが苦笑する。
「私には呆れ笑いに見えましたよ」
その一言に滅多に笑い顔を見せることのないヴィンセントまでもが笑みを称える。
仲間一人一人から笑顔の祝福。
私はそれをずっと忘れないと思った。
「おっと、そうだマリン。ティファに渡すものがあったろ?」
そう言ったバレットの横にいたマリンは笑ってうなずき、私の前にやって来た。
「はいティファ。幸せになってね」
そう言われて手渡されたプレゼントは、あの教会に咲くエアリスの花。
その花を前にして、仲間たちの顔がやさしく彩り、やわらかな空気に包まれる。
そしてそこにいる誰もが彼女の笑顔を思い浮かべた。

誰よりも、明日を、未来を、夢見ていたエアリス。
その彼女が私たちに残してくれた希望に満ちた未来。
―― ティファ大好き
そう言って抱きしめてくれていたように、今はやさしい花の香りが私をやわらかく包む。
そうした花を前にして涙が溢れて止まらなかった。
そんな私の背中をクラウドがずっと撫でてくれる。
それを見たシドがニヤリと笑った。
「おいクラウド、そんなんじゃ花嫁は泣き止まねーぞ」
意味を持たせたシドの言い方にクラウドは苦笑い、そうしてから私の頬にキスをした。
「おいおい、誰がそんな子供騙しなことをしろって言ったんだ?」
呆れたように茶化すシドを今日は誰も咎めない。むしろそれに輪をかけるように他の仲間たちも加勢する。
そしていつもだったらそんな仲間たちのからかいには乗らないクラウドが照れたように笑い、私の肩を抱きしめた。
顔を覗き見るようにするクラウドは陽だまりのようなやわらかい表情。
その彼にそっと唇を重ねられた。

きっと今、私は幸せの独り占めをしている。
そう思ったら、涙はますます止まらなかった。
「クラウド! さらに泣かせてどーすんだ!!」
やんややんやと騒ぐ仲間たち。
その中で困りながらもうれしそうに笑う大好きなクラウド。


最終的にはこうあって欲しいと思うクラティを書けたから満足。

(2006.06.11)
(2018.10月:加筆修正)

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