Bitter & Sweet

「今年はチョコたくさん貰ったんだ」
そう得意気に報告をする彼。
―― 昨日はバレンタイン



教会に咲く大切な花を手入れをしながら彼の話に適当に相槌を打った。
「ふ~ん」
「きっと同期の中じゃ俺がトップだな!」
「そう」
「なあエアリス、聞いてる?」
わたしの反応の薄さに彼はわざわざ顔を覗き込んできた。
とても嬉しそうな顔。
いつもよりも無邪気さ増すその笑顔に少しだけ腹が立った。
他の女の子の話をとびきりの笑顔で語るそんな彼を見ていたくなくて、花の手入れを止めて立ち上がり彼に背を向ける。
「聞いてる! ザックスは昨日たくさんの女の子からいっぱいチョコ貰って、嬉しくて嬉しくて仕方ないんでしょ?」
棘がいっぱいの言葉はさみしさの裏返し。
そんな言い方しかできない自分に自己嫌悪する。
それなのに、彼はわたしの前にまわってニコニコと手を差し出した。
「ちょーだい」
「……なにを?」
「チョコ」


昨日、任務があったザックスとは会えなかった。
だから今日はちゃんとチョコを用意していたけれど……
「いっぱい貰ったならいらないでしょ?」
たくさんの中のひとつになるのはイヤだった。
そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか彼は言う。
「俺はエアリスのチョコが欲しい」
「あげない」
彼もなかなかしつこいけれど、わたしもなかなかの頑固。
「じゃあ、交換して」
「え?」
言ってる意味がわからず聞き返す。
すると彼は満面の笑みで、
「俺が貰ったチョコ全部とエアリスのチョコ、交換して?」
「……トップじゃなくなるよ?」
少し意地悪く言い返した。
でも彼は気にしてないとばかりに屈託なく笑う。
「エアリスのチョコがあればそれでいい」


―― ズルイ
そんな顔で言われたら、拗ねていたことがとても恥ずかしくなる。
本当はわがままを言ってでも昨日会って、いちばんに手渡したかったチョコレート。
いちばん最後になってしまったチョコを手渡すと彼は少し笑って言った。
「やきもち、妬いてくれた?」
自慢話の意図に気づき、手渡したチョコは即、没収。
さみしかったわたしの気持ちをからかう彼に完全に背を向けた。
すると、教会中に響き渡るザックスの焦る声。
「エアリスごめんって! 冗談! 冗談だからチョコちょーだい?」
まるで子どもみたいな彼。
だけど、そんなところがとても好き。



彼の魅力にどんどん惹かれていく甘い想い。
会えない時はさみしくて切なくなる気持ち。
そんなわたしの気持ちをひとつに纏めた甘くて少しほろ苦いビターのチョコレート。
この気持ち、彼に伝わることを願って――


2007年バレンタイン記念小話第三弾はザクエア。
ザックスはいっぱいチョコを貰いそうだけど、そのほとんどが義理チョコというのが私のイメージ。
逆にクラウドは数こそ少ないけれど本命チョコを貰ってそう。
そしてザックスは一方的に数を競ってて、勝ったと喜んでたらいいよw

(2007.02.15)
(2018.10月:加筆修正)

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