BonBon Chocolat

「ユフィはどんなチョコあげるの?」
カウンター越しからティファが頬杖つきながら聞いてきた。
―― 今日はバレンタイン



少しいやらしい笑みを浮かべてそう聞くのは、アイツに関わる話題だから。
ティファ、あたしをからかうだなんて十年早いんだから。
「……あげないよ」
「えー!? チョコ用意してないの?」
こういうイベントが大好きな彼女だから、大袈裟なほどに驚くのは仕方がないかと思う。
「バレンタインなんてお菓子会社の陰謀。そんなのには乗らないもんね!」
口にした言葉にチクリと胸が痛んだのは、ポケットの奥に忍ばせた小さな包みに嘘をついたから。
「可愛くないな」
そうボソリと呟いたとなりに座るツンツン頭の男には、思いっきり舌を出してやった。
そんなあたしたちのやりとりを見てクスクスと笑うティファの顔が、ふいに入口へ向く。
「あ! ヴィンセント。いらっしゃい」


ゆっくりと近づく足音。
いつもと変わらない待ち合わせなのに今日は特別ドキドキした。
「ヴィンセント、残念だったな。折角のバレンタインなのにユフィはなんにも用意してないみたいだぞ」
早々にいらないことを言うクラウドの言葉を受けて、彼はあたしを見てふっと笑った。
「それは残念だ」
そんなことをやさしい顔で言う。
まるで期待していたとも取れる言葉。
それが嬉しかったのに、素直じゃない性格が邪魔をして可愛くない聞き方をした。
「チョコ、欲しかったわけ?」
「ああ、そうだな」
少し出番の見えたポケットの中の包みをそっと掴んだ。
「し、しょうがないな。じゃあコレやるよ」
そう言って出したチョコの包みに驚いた顔をするのは、渡す相手ではなく外野ふたり。
目を丸くして驚くそっちに恥ずかしくなった。
「ほ、本当はデンゼルにあげようと思ったんだけどさ、虫歯になったら困るだろ?」
聞かれてもいない言い訳をすると、外野ふたりが吹き出した。
そんなふたりをあたしが恨めしげに見る横で彼はラッピングを解き始める。
「ちょ、ちょっと! 今開けるなよっ!」
言葉空しく開けられた包み。
その中のチョコを見て、彼はあたしがいちばん好きなやさしい笑顔で言う。
「ユフィ、デンゼルにアルコールの入ったチョコはどうかと思うが?」
「……」


彼のために用意したボンボンショコラ。
見透かされているから返す言葉も見つからない。
そんなあたしの頭に彼の大きな手が乗った。
「ありがとう、ユフィ」
恥ずかしさはピーク。
外野ふたりのニヤけた視線がさらなる追い打ちとなり、あたしを最後まで悪あがきさせた。
「デンゼルにあげようとしたやつだけどね」
一斉に吹き出した三人の真ん中であたしはひとり顔を真っ赤にする。


初めてあげたチョコは、素直じゃない言葉を添えても嫌な顔ひとつしない大人な彼に似合いのボンボンショコラ。


2007年バレンタイン記念小話第二弾はヴィンユフィ。
ユフィはツンデレだったらいい。で、ヴィンセントが大人の余裕で受け止めるともっといい。

(2007.02.14)
(2018.10月:加筆修正)

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