オレンジロード

夕暮れの雑踏の中、偶然あなたの姿を見つけたスーパーからの帰り道。
そんな偶然ほど嬉しいものはなくて、私は手に持つ荷物の重たさも忘れてあなたにかけ寄った。

「クラウドー」
呼ばれて振り返ったあなたは碧い瞳をとてもやわらかにして微笑む。
その笑顔に私の心は弾んだ。
「お疲れさま、クラウド。いま帰り?」
「ああ。ティファは買い物?」
私の手荷物を見て、そう聞いてきた。
「うん。今日は野菜がとっても安かったの」
スーパーでの戦利品を掲げて見せると、あなたは右手を差し出した。
「ほら」
「ん?」
「荷物」
言葉が少し足りないけれど、あなたが持ってくれるのだと分かって、そのやさしさに素直に甘えた。
「ありがと」
そう言って荷物を手渡すと、あなたはやわらかな笑みでうなずく。
そして、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩み始めた。


あなたのやさしさひとつひとつが私を幸せな気持ちでいっぱいにする。
けれど、私はあなたといるとどんどん欲張りになって……
荷物を持たない自分の手。
その手であなたと繋がりたいと思った。
「ねえ、クラウド」
「ん?」
何の気なしに向けられた顔はオレンジ色の夕陽でやさしく彩られる。
途端に胸がドキドキと高鳴って、手を繋ごうのたった一言が言えなくなった。
「ううん、なんでもない」
少し出した勇気を笑ってごまかし、行き場をなくした手を後ろに隠した。
そんな私をあなたはじっと見つめる。
すべてを見透かされてしまいそうなその眼差しに耐えきれなくなって顔が俯きかけたとき、あなたは小さく笑って荷物を持たない左手を差し出した。
「ティファ、ほら」
「……」
私の手に荷物はもうない。
言葉がやっぱり足りないけれど、差し出された手は私が言い出せなかったことを意味しているのがわかった。
見透かされたことが恥ずかしくて、出された手に躊躇する。
するとあなたは、その視線をふっと私から反らせてポツリと言った。
「早くしないとおいてくぞ?」
すべてが見えないあなたの横顔から、とても照れくさそうにしているのが見て取れた。
私はあなたのやさしさにまた甘える。
差し出された大きな手にそっと自分の手を絡ませた。
ぎゅっと握り返されたその力が、私を例えようもないほどの幸福感に包んだ。



「……バレバレだった?」
照れ隠しにそう聞くと、あなたはほんの少し赤に染めた頬に小さな苦笑いを浮かべる。
「ティファは分かりやすいから」
そんな顔をして言う知り尽くされた感はとても心地よくて、私はまたあなたに甘えた。
「だって、恥ずかしかったんだもん」
「俺だって相当恥ずかしいんだぞ?」
オレンジ色に染まる街中で見せた照れくさそうな笑顔とやさしい力で握る大きな手。
あなたの言うそれが私にも伝わる。
「うん、そうだよね」
私の知ってる風な物言いは、あなたをまた苦笑いさせた。



あなたと肩を並べて歩く幸せ。
あなたと手を繋ぐ幸せ。
そして、あなたがいつもとなりにいる幸せ。
そんなたくさんの幸せを感じながら、ゆっくりと夕焼け染まる街をあなたと歩いた。


ティファは手を繋ごうとすら言えないんだろうなー。
そんなティファは可愛いだろうなーという妄想。

(2007.06.18)
(2018.10月:加筆修正)

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