恋敵・おまけ

「デンゼルっ!」
キッチンから聞こえてきたのはティファの大きな声。
読んでいた雑誌から顔を上げてキッチンのほうを見ると、そこには説教するティファと説教されるデンゼルの姿があった。


―― またか
ここ最近よく目にする光景だ。
近頃デンゼルのイタズラがひどいと、ティファから何度かそういう愚痴は聞かされていた。
前はそんなこともなくいい子の代表みたいな子どもだったのに……とティファは言うが、俺は正直少しほっとしていた。
あの年齢であまりにもいい子でいられるのはかえって心配だったからだ。
血の繋がりがないからの遠慮。
それでいい子をしているのだとしたら、それはあまりにもデンゼルが不憫に思えた。
だから今のデンゼルを見ていると、年相応の子どもらしさを感じて安心できた。
人様に迷惑をかけず、家族の中でのイタズラなら多少は目を瞑るのもいいだろう。
そう、家族の中なら――



よくよく考えてみるとおかしな点に気づく。
デンゼルがいい子でいないのはティファの前だけだ。
俺にはティファが言うイタズラなどされたことがない。
ふと説教されているデンゼルに目をやった。
アイツ、説教されてるのになんであんな嬉しそうな顔してるんだ?
そして、考え合わせて辿り着いた結論に俺はため息をついた。

―― 好みのタイプが一緒

「……そういうことか」
思わずひとりごちた。



さて、どうしたものか。
思わぬところにいたライバルの存在に俺は対策を考える。
子どものデンゼル相手に表立って張り合うことはしないつもりだ。
けれど、だからといってそのまま笑って許せるほど俺は寛容な心は持ち合わせていない。
ティファをからかっていいのは俺だけだ。
そうなるとデンゼルには頃合いを見て牽制しておかなければならないな。
ん、大人げないって?
いや、それは違う。
デンゼルを男として、ライバルとして認めたからこその牽制だ。
まあ、余裕がないと言われればそれまでだけど……


(2007.11.03)
(2018.10月:加筆修正)

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