summer holiday

夏のおひさまがてっぺんまで昇り、気温もぐんぐんと上昇する午後。
白いレースのカーテンをやわらかに揺らせる風に乗って、短い夏を精いっぱい生きるセミの鳴き声が聞こえてくる。
少し離れた海の波音とそこでにぎわう人たちの声を遠くに、コスタの別荘でのんびりと過ごすオイラたちの夏休み。



リビングではクラウドがティファ特製のアイスミントティーを飲みながら、お気に入りのロッキングチェアに揺られて読書中。
グラスに入った大きな氷がカランと涼やかに躍る音を聞きながら、オイラは静かなこの部屋でお昼寝をするのが日課だった。
コスタの暑さは半端じゃない。
暑いのが苦手なオイラは、この部屋でのんびりするこの時間がいちばん好きなんだ。
そしてすぐそばのキッチンでは、ティファが昼食の後片付けをしている。
そういうことを苦もなくするティファだけど、心なしかとても楽しそうなのは、クラウドが近くにいるから―― なんてことくらい、オイラ知ってるよ。


―― あいつら見てるとヤキモキするぜ
シドやバレット、はたまたユフィがよく口にするセリフ。
クラウドとティファのことを言ってるんだけど、オイラよくわからないんだ。
なんだろう? ヤキモキって。
ヤキイモなら知ってるけど。
旅の時もふたりはなかよしだったけど、今はそれよりももっとなかよしな“コイビト”っていう関係なんだって。
オイラ、それくらいは知ってるよ。
なかよしの最上級のことを言うんだよね!
クラウドがティファのこと大好きで、ティファもクラウドのことが大好きってこと。
でもクラウドとティファは、その“コイビト”みたいな雰囲気をあまり見せないんだ。
ふたりとも照れ屋さんだからね。
そんなふたりを見てみんなが言うんだ、ヤキモキするって。
みんなはイチャイチャするふたりが見たいのかな?
うん! オイラも見てみたいな。
きっと、自慢のしっぽがブンブン振るっちゃうくらい楽しい気分になると思うんだ。



そんな楽しい想像をしてウトウトしかけた頃、食器を洗う水の音が止んだ。
ティファの後片付けが終わったみたいだ。
そしてゆっくりとこっちの部屋に近付く足音。
それはクラウドのそばで止まり、直後にクスッと小さく笑う声が聞こえた。
そっと片目を開けて様子を見たら、いつの間にか眠っているクラウドを見てティファが笑ってた。
オイラが言うのもなんだけど、クラウドの寝顔は子どもみたいなんだ。
だからきっと、ティファにもそう見えたから思わず笑っちゃったんだよね。
いつもやさしい笑顔を見せるティファだけど、そんなクラウドの寝顔を見つめる顔はとっても幸せそうだった。
だけどティファったら急にそわそわしだして、それから辺りをキョロキョロと見回すんだ。
そんならしくない行動をなんだろうと思いながら見ていたら――

オイラ、見ちゃった。
ティファがクラウドのおでこにチュッてしたところ!!
ものすごーくびっくりした。
だって、あの恥ずかしがり屋のティファが自分からチュウをしたんだよ。
そんなティファの顔は真っ赤っか。
こっそり見ていたオイラにまで伝染しちゃったよ。
ティファは窓にいちばん近いソファに座って、入ってくる風で赤くなったほっぺたの熱を冷ましていたよ。
そうする姿を見て、かわいいな~なんて思ったんだ。
いつもユフィにからかわれてるティファだから、今日のことはオイラだけの秘密にしておいてあげるね。



そんな小さな秘密を抱えながら、オイラいつの間にか眠ってた。
ロッキングチェアの軋む音で目が覚めて、眠い目を擦りながらぼんやりと辺りを見まわす。
ミントティーの氷はすっかり溶けて、そのぶん水かさの増したグラスの中でミントの葉がプカプカと浮いていた。
そのグラス越しに、クラウドが大きく身体を伸ばしながらあくびをしているのが見えた。
どうやらクラウドも起きたばかりみたいだ。
クラウドも眠い目を擦りながら辺りを見まわしている。
そうしてその視線は、ある場所で止まった。
お昼寝中のティファだ。
ソファに座ったままの姿勢で眠っているティファの前髪をやわらかい風がやさしく揺らせている。
とても気持ちよさそうに眠っているそんなティファの姿をクラウドはずっと見つめていたんだ。
オイラ、ちょっとドキドキした。
だってクラウドのあんなやさしい顔、あんまり見たことなかったから。

表情豊かじゃないクラウドの碧い瞳は、ときどき冷たい印象を与える。
だけど、その瞳がやさしい色に見えるぐらい穏やかな顔をしてたんだ。
そのクラウドがゆっくりと立ち上がってティファに近付くから、オイラのドキドキはものすごい早さになった。
な、なにするのかな?
息を殺して見守っていると、クラウドは周りを警戒することなく眠っているティファの前で軽く身を屈めて、そして……

ティファの唇にチュウをしたんだ!
オイラ、思わず声を上げそうになってあわてて口元を覆ったけど、ハッとしながら振り返ったクラウドと目が合っちゃった。
さすがリーダー。人並み外れた反射神経は旅を終えた今も健在。
ちょっとした物音や気配でもすぐに身体が反応しちゃうんだね。
オイラ自慢の嗅覚と同じくらいに。
と、変なところで感心してみたけれど、本当は盗み見してたこと怒られちゃうかなってドキドキした。
だけどクラウドはそんなオイラに一瞬びっくりした顔をしたけど、すぐにふっとやさしく笑ったんだ。
そして人差し指を口元に立てて、ナイショなって小声で言った。
もちろんオイラは夢中でうなずいた。
そうしたらクラウドは小さく笑って、お気に入りのロッキングチェアに戻り、何事もなかったかのように読みかけの本をパラパラと捲った。
その一連のしぐさをオイラずっと見入ってた。
クラウドがカッコよく見えたんだ。
みんなには内緒だけど、オイラ、クラウドのこと密かに憧れている。
他人に興味ないフリなんてしてるけど、本当は誰よりも気遣うやさしさを持っていることオイラ知っている。
オイラもそんな男になるんだ。



その憧れのクラウドがふと読んでいた本から顔を上げた。
「ティファが昼寝なんて珍しいな?」
目を覚ましたティファにクラウドがそう言った。
「うん、気持ちよくってつい……」
気持ち恥ずかしそうにそう言ったティファをクラウドはやさしい瞳で見つめ返す。
そんなふたりの間にピンク色の空気が流れて、オイラすぐにピンときた。
これが“コイビト”の雰囲気だって。
それはフワフワの綿菓子みたいに甘くて、オイラ夢中でしっぽを振ってた。
そんなふたりにオイラ言いたかったんだ。

―― ねえティファ、さっきクラウドがチュウしてたんだよ
―― ねえねえクラウド、ティファにチュウする前、クラウドはおでこにチュッてされてたんだよ

オイラ、みんなが言うヤキモキの意味が少しわかった気がした。

「そろそろユフィたちが帰って来る時間ね。おやつの準備しなくちゃ、ね、ナナキ」
そう言うティファにとびきりの笑顔でうなずいた。
「ねえティファ、今日のおやつはなに?」
「うーん、そうね……冷たいシャーベットなんてどうかな?」
オイラの大好物だ!
うれしくなってしっぽを振ると、ティファはクスクスと笑った。
「じゃあ決まりね」
そう言って立ち上がったティファにオイラ心の中で呟いた。
―― ティファ、ごめん!
オイラはティファの足元に絡み付く。
そうされて足を取られたティファは小さな悲鳴をあげて、よろけた身体はそのままクラウドの方へ倒れ込んだ。
そんなティファをクラウドがしっかりと抱きとめたのを確認して、オイラは言った。
「みんなを呼びに行って来るね!」



暑い暑いコスタの夏。
青い空にあるおひさまも、その空に向かって背伸びをするひまわりも、セミの合唱に合わせてみんな笑っている。
オイラもつられてしっぽを振る。

―― ねえ、クラウドとティファ
オイラたちが戻って来るまでにチュウしてね。
ちゃんとお互いの意識がある状態で、だよ。


ナナキ視点でクラティお話。ナナキはみんなの癒やし。

(2006.08.21)
(2018.10月:加筆修正)

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