未来へ宛てた手紙

空を見上げれば太陽が光り輝き、夜になればたくさんの星が夜空を彩る。
風に揺れる木々の葉も、野に咲く花たちもすべては星の巡り合わせ。
エアリスの中にある古代種の血が肌でそれを感じさせた。

クラウドたちと旅をするようになって知った外の世界は、ミッドガルからほとんど出たことのなかったエアリスにとってすべてが新鮮だった。
自然の情景はもちろんのこと、訪れた街や村でもその土地ならではの珍しいものがあって、その都度エアリスを感動させる。
そして、いま立ち寄っている街でもエアリスを魅了させるものとの出会いがあった。



「未来へ手紙?」
小首をかしげて問うエアリスに店主の老人がうなずいた。
心魅かれるそれにエアリスが興味を示すと、老人は嬉しそうに説明を始めた。
「この絵はがきにメッセージを書く。それはお嬢さんの大切な人でもいいし、自分自身に送ってもいい。そしてその絵はがきをこの特別な封筒に入れてポストへ入れるだけ」
そうすれば、その手紙は三年後に配達されるという。
郵便業界が企画した期間限定のイベントだと、老人は補足した。
「未来にメッセージか~。うん! とても素敵ね」
「お嬢さんも大切な誰かの未来に手紙を出してみてはどうかね?」
未来のための旅をしているエアリスにとって、それの購入を決めるのに時間はそうかからなかった。



いつもはパーティーを分けての移動がほとんどの中、今日は珍しくメンバー全員が揃っての移動だった。
「クラウド、ここで休憩にしよ!」
雄大な草原を前にユフィがそう提案する。
前の休憩から時間も経っていたため、クラウドはすんなりと承諾した。
「そうだな。よし、じゃあここで小休止。みんな、あまり遠くへは行くなよ」
リーダーの許可がおり、仲間たちはそれぞれに寛ぎの場所を求めて散らばった。
そんな中、エアリスは草原全体が見渡せる丘へとひとりで向かう。
社交的なエアリスがこうした自由時間をひとりで過ごすことはあまりない。
大体が仲間の誰かを誘って一緒に寛いだりしている。
しかし今日はあえてひとりになれる場所を選んだ。

「うん、ここならだいじょぶ」
仲間たちが見渡せる小高い丘に到着すると、座り心地の良さげな場所に腰を下ろして、そして購入したばかりの絵はがきを取り出した。
「さて、まずは誰に書こうかな……」
そう呟きながら周りを見渡すエアリスの視界に、ナナキをからかうユフィの姿が映った。
「しょうがないなあ~ユフィったら、またナナキをからかって」
ユフィにとって年上がほとんどのこのメンバーの中、唯一年下であるナナキはからかいがいがある対象者なのだ。
まあもっとも、ユフィの場合は年上だろうが年下だろうがあまり関係ないのだが……
エアリスはそんな彼女の三年後にメッセージを書くことにした。
三年後といえば、ユフィは19歳。

―― 少しは女の子らしくなったかな?
恋人なんていたりして。そしたらまずは、わたしにきちんと報告!

三年後、恋をして少しは女の子らしくしているユフィを想像する。
それでも相変わらずな姿しか想像できなくて、エアリスは苦笑した。
「じゃあ次は、おもちゃにされているナナキ」

―― 星を学ぶ地で生まれ育ったナナキ。
誰よりも星のことを考えてるあなたには、ゆっくりと素敵な大人になって欲しいな。

ユフィのからかいから逃れて、くしゃくしゃにされた毛並みを整えるナナキを見て微笑んだ。
続けて、そのナナキを慰めているケット・シーへと手紙を書く。

―― 三年前のあなたはスパイ。
だけど今のあなたはきっとわたしたちの大切な仲間の一人。
どう? わたしの占い当たってるでしょ?

ぬいぐるみを操る今はまだ正体わからぬ相手。
けれど根はきっといい人だと、エアリスの勘がそう言っていた。
「さて、次は……」
そう呟いて目に止まったのは、一人佇むヴィンセント。

―― 相変わらず無口なのかな?
あなたの見守るやさしさ好きだけど、たまには自分の思うがままの行動も大事。
ほら、近くにわたしという良いお手本がいるでしょ?

寡黙な彼にはいつもそう言っていた。
そのたびにエアリスはヴィンセントに苦笑いされている。
そしてまた、これを読んだ時にも苦笑いされそうだと想像したら、エアリスはクスクスと笑わずにはいられなかった。
「じゃあ、次はバレット」
そう言いながら、自慢の銃を磨くバレットに目を向けた。

―― 残念だけどリーダーには向いてないかな……
だけどね、今あなたのそばにいるマリンちゃんのお父さんをしているバレットは合格。

たったひとりの愛娘を溺愛するあまり、みんなからは親バカだなどとからかわれているバレットだったけど、エアリスはそんな彼がとても好きだった。
「さて、次は……」
咥え煙草で仰向けになり、大空を見上げているシドにメッセージを宛てる。

―― シドの操縦で大空を駆け巡りたい。
三年経った今なら可能だよね?
今度こそ楽しい旅、しよ。

そう書き記して、エアリスはシドと同じように雲ひとつない青い空を見上げた。
その空に未来を夢見ながら、大切な友達がとなりで笑っている姿を思い描く。

―― ティファと出会えたこと、本当に幸せだなって思えるよ。
これからもずっと、ともだち。わたしの大切なともだち。

ユフィとおしゃべりをしている大好きな彼女に微笑んだ。
そして、そこから少し離れた場所で一人考え込む様子のクラウドの姿を捉える。
途端、エアリスの表情から微笑みが消え、代わりにその顔を不安でいっぱいにする。
クラウドに感じる違和感。
それは旅が進むにつれて色濃く感じていた。
本人さえも気づいていないそれに、エアリスは例えようもない不安に襲われる。
エアリスはそれを振り払うように軽く首を振り、筆を走らせた。

―― 本当のあなたを探していた。
今、わたしはあなたの本当の笑顔を見ていられてる。うん、きっとそうだと信じてる。

仲間全員への手紙を書き終えて、エアリスは一息ついた。
そうしてから、最後の一枚に筆を入れる。

―― 今のわたし、毎日がとても楽しい。
三年後も笑って毎日を過ごしていますか?

未来の自分に書く手紙はなんだか気恥ずかしかった。
けれども、それが届くことを考えるととても楽しみでもあった。
そうして三年後の未来に届くという特別な封筒にみんなに宛てた手紙を纏める。
宛先をとりあえず自分の家にしたのは、みんなの住所を知らないことに気づいたからだ。
後でみんなにそれとなく聞こうと思った。
そして出発直前、エアリスは赤いポストへ向かう。
「三年後に―― ね」
きちんと届くことを願ってポストに投函した時、後方からクラウドの声が聞こえた。
「エアリス、そろそろ出発だ」
「はーい。今行くー」
エアリスは赤いポストに背を向けて、大切な仲間たちの元へ走った。





「ゲインズブールさん、郵便です」
配達員の声が聞こえ、エルミナは返事をしながら玄関へと向かった。
「はいはい、ご苦労さまです」
そう出迎えたエルミナに配達員は軽く頭を下げて、にこやかな笑顔を向けた。
「いやーずいぶんと探しましたよ、ゲインズブールさん」
「え?」
「こちらのご住所を探すのに手間取りました」
そう言われて手渡された手紙の宛先は、かつての伍番街に住んでいた頃の住所。

あの日から三年。
エルミナはミッドガルを離れ、カームに居住を構えていた。
越してから一年ほどは旧住所宛ての手紙がいくつか届いていたが、三年も経つとそういったこともほとんどなかった。
だからそんな手紙に少し驚いたが、そのエルミナの目をさらに見張らせたのはその宛名だった。
今はいない娘の名前。
言葉をなくしたエルミナに配達員はやさしく微笑んだ。
「過去からの手紙です」
エルミナはこの手紙の主旨を聞き、最後に「届けることができて良かったです」と言って去って行く配達員に深々と頭を下げた。

部屋に戻って、震える手で手紙を開封する。
中にはメッセージが添えられた九枚の絵はがき。
その絵はがきから、三年前、娘がその時を楽しく過ごしていたのだということが伝わった。
エルミナの頬をゆっくりと涙が伝う。
娘が好きだった花を溢れる涙で濡らした。



ひとしきり涙を流した後、エルミナは電話を手に取った。
数回コール音が鳴って電話は繋がる。
『はい、ストライフデリバリーサービスです』
「こんにちはティファさん。エルミナです」
『ああ、お久しぶりです、エルミナさん。お元気ですか?』
「ええ、元気にしていますよ」
礼儀正しい声が受話器を通してエルミナの耳に届き、笑みをもらす。
三年前、自分のところへ報告をしに来た彼女。
あの頃、悲しみに明け暮れていた娘の大切な友も、自分と同じように悲しみを乗り越えて今を生きている。
「配達をお願いしたいのだけどいいですか?」
『あ、はい。じゃあ彼に連絡入れて、すぐにそちらに向かわせます』
「お願いしますね。あっ、それからクラウドさんにお伝え下さい。今回の配達はあちこちと移動を要しますがよろしくお願いしますと」


2007年エアリス誕生日記念小説です。
エアリスはきっとこういうの好きだと思う。そしてAC後のクラウドなら穏やかな気持ちで仲間たちに手紙を届けられる。それをエアリスは喜んで見ていたらいいな。

(2007.02.02)
(2018.10月:加筆修正)

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