継ぐ者へ

君が生まれた日のこと、パパは今でもよく覚えているよ。
窓から射し込む春の陽はとてもやわらかく、そよぐ風は新緑の葉をキラキラと輝かせながら揺らし、そして生まれたばかりの君と私をやさしく撫でていった。
溢れんばかりの光が降りそそぐこの季節。
光りの天使を授かった――
私の腕のなかで眠る君を見てそう言ったら、ママに『親バカね』ってクスクス笑われたな。
でもパパは今でもそう思ってる。
だって君は、成長するごとに眩しいくらいの愛らしい笑顔で私たちを幸せな気持ちにしてくれたのだから。
そんな君の笑顔を、成長を、ずっとそばで見守っていられると思っていたけれど、今はこういう形でしか君を見守れない。
それはとても寂しくて心残りなことだけど、それでも君がいろんな人たちに支えられながら生きていること、こうして笑顔でいることはとても嬉しい。
だけど……


なあ、ティファ。
どうして今、君のそばにいるのがその男なんだ?
なぜ、そんな男のそばで幸せそうに笑ってる?
あ~もう、そんな男に頬を赤くして。
そんなの今となりにいるあなたが大好きよと言っているようなものじゃないか。
いいかティファ、はっきり言うぞ。
パパはそいつが大キライだ!



―― あなた」
あっママ! ちょっと見てくれよ。ティファがあんな男と一緒に……
「あなた、ティファの大切なひとをあんな男呼ばわりしちゃダメじゃない」
た、大切なひとだと!?
「そう、ティファの大好きなひと」
だっ、大好き!? そんなの認めないぞ! 私はあいつがキライだ!
「そんなこと言ったら『パパなんか大嫌い』ってティファから言われちゃいますよ」
うっ! そんなこと言われたらパパ一生立ち直れないよ……
ああ、なんか本当にそう言われたみたいで落ち込んできたぞ。
昔はさ、『パパがいちばん好き』なんて言ってたのに。
『おっきくなったらパパのお嫁さんになるの』なんて言ってたのにな。
そんなこと、もう忘れちゃったんだろうな。
そう言ってくれたときの笑顔、今はその男に見せてるんだもんな……
「もうパパったら。ティファはもう子どもじゃないんですよ。それに彼はやさしくていい青年じゃないですか」
な、なにを言ってるんだ、ママ!
あいつは私たちの大事な娘を危険な目に合わせたんだぞ!?
あんな場所に連れ出したりして。
あのとき、私がどんな気持ちだったか。
私はママだけじゃなく、ティファまで失ってしまうのかと……
そんなことを思ったら、あいつのことを許せるはずがないじゃないか。

―― あなた」
な、なんだいママ。
「本当はもうわかってるんでしょ? 彼がそんなことをしたんじゃないって」
……
「彼の気持ちにも気づいてたのよね?」
…………そうだよ。
ああそうだよ、あいつがティファを好きなことぐらいとっくの昔に気づいてたさ。
あいつはいつもいつもティファの周りをコソコソしていたからな。
だいたい、そのコソコソ隠れて見てるっていうのも気に入らないんだ。
「照れ屋なのよ。可愛いじゃない」
ふん、照れ屋でいて可愛いのは女の子だけだ。男ならもっと堂々とアタックしろっていうんだ。
「堂々としてたら彼のこと認めてた?」
み、認めるわけないだろ!
「どっちにしてもダメなんじゃない」
うっ!
「私は彼のそういうところ、きらいじゃないわ。だって昔のあなたにそっくりだもの」
あんな奴と私がそっくりだと!?
「そっくり。あなたも私の周りをコソコソしてたじゃない」
ちょ、ママ!
「ティファはちょっと鈍感なところがあるから彼の気持ちに気づけなかったけど、私はすぐにパパの気持ちがわかったわ。あ~この人、私と仲良くなりたいのねって」
あ、あの~ママ……
「だから私から声をかけた。ねえ、覚えてる? あの時のあなた、すごくぶっきらぼうな話し方だったの」
…………
「最初はびっくりしたけど、でもあなたの真っ赤な顔を見て思ったわ。あなたはただ不器用なだけなんだって」
ママ……
「だから彼もね、そうだと思うの。あんなにティファのこと想ってくれてたんだもの。これからもずっとティファを大切にしてくれる。あなたが私とティファを大切にしてくれたみたいに」
…………ふ、ふん。
だ、だけど、これだけは言わせてもらうぞ。
いいか、あいつと私は似てないからな。それだけは絶対だ!
「ふふふ、そうですね」
私のほうがまだ要領いいし、顔だって……
それにあんなチョコボみたいな髪型してないし……
「やっぱり親子」
ん?
「なんでもないわ。さあパパ、そろそろ行きましょう」
う~ん、もう少しティファを見てたいな。
「でもこれ以上見守ってるとパパさらに機嫌悪くなるかも」
えっ? ああ、まあそうだな。あの男がいるからな…………って、ああーーーっ!!
あ、あ、あの男、私のティファに!
「ほらほら、これ以上見守っているとただのおじゃま虫よ」
で、でも! あの男、私のティファにキ、キ、キ…
「はいはい、キスしようとしてるのよね。仲が良くって微笑ましいわね」
マ、ママ、なにそんな悠長なことを!
「あら、私たちもよくしてたことじゃない」
そうだけど……って、いやそうじゃなくて!
パパ、それだけは許さんぞ!
こうして見守ってるうちはそんなこと絶対許さん!!
「パパが許さなくてもティファは受け入れているの。さあ、私たちが見守る時間はもうおしまい。あとは彼に任せて私たちはもう行きましょ」
うっうっ、イヤだ、イヤだよ、私の私の大事なティファが……
「パ~パ! いいかげん往生際が悪いわよ」
マ、ママ、そんなにグイグイ引っ張らないでくれ。
ええい、こうなったら最後の力!



「いてててて!」
「ク、クラウド大丈夫!?」
「か、風が急に! め、目にゴミが!」

ふう~、なんとか間に合ったな。
……ふん、ざまあみろ。
私のティファに手を出そうなんて百万年早いぞ!
私なんてママと手をつなぐのすら、ずいぶんと時間が掛かっ……コホン。
いや、まあ、なんだその……


ティファ、誕生日おめでとう
―― ……と幸せになるんだぞ
それと、そこのチョコボ頭!
―― ティファを頼んだぞ


2009年ティファ誕生日記念小説です。
娘を持つ男親というのはこういうもの。クラウドがんばれw

(2009.05.03)
(2018.09月:加筆修正)

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