欲しいもの

チョコボのぬいぐるみ、ラジコン、自転車。
欲しいものは、その時々でいろいろあった。
でも、女手ひとつ生活を支えてくれていた母さんに遠慮して言えずにいると、
―― なんでもいいんだよ、年に一度の特別な日なんだから
この日だけは自分が欲しいもの、ちゃんと言っていいんだよ
やさしい笑顔でそう言われた。



「クラウドが今いちばん欲しいものってなに?」
壁にかけてあったカレンダーを一枚剥がし、明日から始まる日付の羅列を眺めてティファがそう聞いてきた。
カレンダーの月は8月。
細く長い指は11の日を指していた。
それを見て、クラウドの口元がふっと綻ぶ。
その日を覚えてくれてたことだけで十分―― と、クラウドがそう言おうとしたとき、ティファがくるりと振り返った。
「あ、“なにもいらないよ”は、なしだからね?」
可愛く先手を打たれて、クラウドは苦笑した。

「欲しいもの、か……」
口先でぽつりそう呟きながら、クラウドは自分のとなりに座ったティファを見る。
「それはなんでもいいのか?」
「もちろん、なんでも!」
クラウドはまた苦笑した。
彼女には俺から無茶なお願いをされるかもしれないなどという考えが毛頭ないらしい。そう思ったら、ちょっと脅して彼女の反応を見てみたくなった。
「本当になんでも?」
含みをもたせた言い方で意地の悪い笑い方をすると、ティファは「うっ…」と言葉を詰まらせて一瞬ひるんだ。
けれども後には引けない気持ちのほうが勝ったのか、再び胸を張っての余裕な態度をみせる。
「女に二言なし! なんでも言って」
では、その強気な言葉に甘えましょう。
クラウドは王の許しを得た騎士よろしく、優雅な笑みで大袈裟に一礼すると、その表情をすっと真顔に戻してティファを見つめた。
「ティファが欲しい」
先程までの冗談っぽい雰囲気など微塵も見せず、ただひたむきに紅の瞳を見続ける。
そうされて、びっくりした顔のまま何も言えないでいるティファにクラウドはもう一度言った。
「ティファが欲しい」
二度のそれでようやく意味を解したのか、ティファはみるみるうちに熟れたトマトのように真っ赤になった。
「えっ、あ、あの…」
「俺、ティファが欲しいんだ」
三度のそれには羞恥心がとうとう耐えきれなくなったのか、ティファはクラウドのまっすぐな視線から逃げるように俯いた。
同時に艶やかな黒髪がさらりと肩から滑り落ちる。
クラウドがその絹糸のような髪にそっと触れると、ティファの身体がぴくりと震えた。
その強ばりを解くようにクラウドはやさしく髪を撫で、恥じらいの色が広がるその頬をそっと包み、愛おしく想う彼女の名をささやいた。
そうされたティファは、観念したかのようにゆっくりと顔をあげる。
紅潮させたままのその顔にクラウドはふっと笑って聞いた。
「ダメか?」
「そ、それは、その……」
そう言って口ごもったあと、ティファは困ったような上目遣いでぽつりと呟いた。
「……もうあげてるじゃない」


2009年クラウド誕生日記念小説。
『だよな、だよな、そうだよな。ティファは俺のもんだよな』とクラウド再確認して大満足したというお話。

(2009.08.10)
(2018.09月:加筆修正)

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